興味深いのは、日本の人口はイスラエルの人口900万人より13倍多いけれども、4月8日現在でイスラエルの感染者は9000人以上、日本は約4800人と、日本よりイスラエルの方が大幅にコロナウイルス感染者数が多いことです。

 それはなぜでしょうか? 理由の一つは、イスラエルは親族関係がとても緊密なことです。イスラエルは小さい国で、親族や友人などが頻繁にお互いを訪問し合います。なので孤独を感じることはほぼありません。私が思うにこの行動はユダヤ人の歴史と密接に関係しています。世界中のユダヤ人は自らのコミュニティーとつながりを持つことで生き残ることができたのです。危機管理に関する不断のコミュニケーションや収入を得る機会につながる社会的な交流は、生存のためにはたいへん重要だったのです。

 私自身の例を紹介しましょう。私の父母はエルサレムの我が家から車で1時間のところに住んでいます。私たちは少なくとも、主に週末ですが、2週間に1回は会っています。私には4人の姉妹がいますが、それぞれの子どもたちの誕生日などでほぼ毎週のように会っています。そしてこのようなイベントにはみんなが参加すると思っています。「仕事が忙しいので」と家族のイベントに参加しないのは、いい理由ではありません。

 それ以外にもユダヤ教にはたくさんの祭りがあり、これも家族が集まる仕組みになっています。

 今年はこのユダヤ教の祝祭「過ぎ越しの祭」が4月8日から16日まであります。伝統ではこの祭りの開始の夕食会(セデル)は親族・友人など大勢が集まって行います。しかし今年は初めて政府が、夕食会は同居の家族に限定し、街を封鎖しました。

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Nissim Otmazgin

Nissim Otmazgin

〇Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授。トルーマン研究所所長を経て、同大学人文学部長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年ヘブライ大学にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に贈られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。2012年、エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。

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