次に、「アキレス腱断裂」についてみていきましょう。アキレス腱は足首の後ろ側にある、ふくらはぎの腓腹(ひふく)筋とヒラメ筋がかかとの骨につながる太い腱です。スポーツなどの活動中にここに強大な力が加わると断裂することがあり、バチンという断裂音がして衝撃を感じることもあります。その直後から、足関節の踏み返しが困難になり、歩けなくなります。

 アキレス腱断裂の場合は、前十字靱帯とは違って、切れたままにしておくことはできません。アキレス腱をつなぐ治療法には、手術療法と保存療法の2通りがあります。じつはアキレス腱断裂については、「しっかり手術で縫って早く動かすほうがいい」という意見と、「侵襲の大きい手術をせずに保存療法をしたほうがいい」という意見とがあって、専門家の間でも議論があるのです。

 スポーツや重労働をする活動性の高い人の場合は、手術をすすめられることが多いでしょう。手術の場合、断裂部を縫合、もしくは再建して、術後はギプスや装具で固定したのち、徐々にリハビリと筋力トレーニングをおこなっていきます。回復までの時間は、断裂の部位や腱の状態などによって異なりますが、通常は保存療法よりも早期に復帰できます。

 前十字靱帯の場合は断裂したらそのままではつながりませんが、アキレス腱は足先を伸ばした状態でギプス固定することにより、待っていれば自然につながる可能性があります。そのため、保存療法が可能で、その治療成績は良好です。

 ただし、手術療法より治療期間が長くかかり、数カ月から1年かかることもあります。再断裂の頻度が高いこと、また伸ばして固定している間に、筋力が低下し関節が縮こまって固まるといった問題点もあります。充実したリハビリ治療がおこなえる施設で保存療法を受けることが条件となります。

 したがって、個々の患者においてアキレス腱をどれくらい使うか、日常の活動度、スポーツ種目は何か、復帰までの時間。持病のある人では手術した場合のリスクなどを考慮して、最終的に治療法を決めることになります。

 以上、二つのけがについてお話ししてきました。皆さんにお伝えしておきたいのは、最善の治療法は、その人の年齢や活動度などに応じて人それぞれ違うということです。また、手術をすれば100%元通りに治るというわけではありません。痛みが残ったり、可動域が狭くなったりする可能性もないとはいえません。選択する治療法のメリット、デメリットをきちんと説明してくれる医師のもとで、治療を受けることが大切です。

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松本秀男

松本秀男

松本秀男(まつもとひでお)/医師。専門はスポーツ医学。1954年生まれ。東京都出身。1978年、慶応義塾大学医学部卒。2009年から2019年3月まで、慶応義塾大学スポーツ医学総合センター診療部長、教授。トップアスリートも含め多くのアスリートたちの選手生命を救ってきた。日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長。

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