ビートたけし(左)と志村けんさん(c)朝日新聞社
ビートたけし(左)と志村けんさん(c)朝日新聞社

 男性週刊誌で、ビートたけしが志村けんさんの追悼記事を書いていた。その中でたけしは「関東のお笑い文化」が生き残ったのはコントをやり続けた志村さんのおかげだと持論を述べていた。

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 また、彼はかつて志村さんと共演した『神出鬼没!タケシムケン』(テレビ朝日系)を振り返り、それが失敗してしまった理由について以下のように述べていた。

「2人とも“ボケ・ツッコミ”の両方できるタイプだからね。本来なら“無邪気にボケる役”と“威張ってツッコミを入れる役”を役割分担したほうがいいんだけど、お互い遠慮して、どうも消化不良で終わっちゃった」(『週刊ポスト』2020年4月17日号より)

 個人的にはこの話が興味深かった。この番組は私もリアルタイムで見ていて、それなりに楽しんで見てはいたのだが、お笑い界のトップである2人が組んだ割には物足りない内容であるように感じられた。実際、番組は1年で打ち切りになってしまった。

 2人とも言うまでもなく圧倒的な実力のあるスーパースターであり、番組が始まったときには話題になっていて、世間の期待も高まっていた。それでも、どうにも相性が悪く、両雄並び立たずという結果になってしまった。

 お笑いの世界では、面白い人を2人並べれば2倍面白くなるというものではない。2人の力が噛み合わなければ、1足す1が2にも満たないということがある。

 一般の視聴者がテレビを見ていて芸人同士の相性を気にすることはあまりない。なぜなら、テレビで成功しているお笑いコンビというのは、そもそも相性がいいからこそ成功しているという場合が多いからだ。本来のコンビでテレビに出ているうちは、相性はそれほど意識されることがない。

 志村さんはザ・ドリフターズのメンバーに加わって以来、さまざまな相手とパートナーを組んできた。たけしが書いていた通り、志村さんはボケとツッコミの両方をこなせるため、番組や企画によって自らの役割を使い分けていた。

 例えば、『8時だョ!全員集合』では、いかりや長介さんという絶対的なツッコミがいたため、志村さんがボケを担当していた。教師、教官、母親などの権力者を演じるいかりやに怒られる志村さんの姿が目に焼き付いている人も多いだろう。志村さんはどんなに強く叱られても懲りずに反抗を続ける。いまや志村さんの代表作となった「アイーン」も、もともとはコントの中でいかりやに対して反抗心を示すポーズだった。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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志村さんのツッコミは萩本欽一の影響が大きいように見える