2対2の延長10回、日本ハムは金子誠が四球を選び、無死一塁。次打者・井出竜也は送りバントで投前に転がした。

 打球を処理した森慎二は、二塁は間に合わないと思い、一塁に投げようとしたが、直後、「ギリギリだったから、投げる場面」と捕手・伊東勤が二塁を指示したことから、前代未聞の珍プレーが生まれる。

 慌てて森が二塁に投げたボールは、力が入り過ぎ、ベースカバーの松井稼頭央の頭上を遥かに越えて右中間へ。必死に追いかけるセンター・清水雅治、ライト・河田雄佑を尻目に、フェンス際まで転がっていった。

 この間に一塁走者・金子はもとより、井出までがダイヤモンドを1周。4対2と勝ち越し、そのまま逃げ切った。

 送りバントが“ランニング2ラン”(記録は犠打野選とエラー)になった井出は、2月28日のオープン戦(中日戦)でも、平凡な遊ゴロが福留孝介の目の前で大きく跳ね、左中間に抜けていく珍ランニング本塁打を記録したラッキーボーイだったにもかかわらず、「疲れた。あんなことは野球をやって初めてのこと」と信じられないような表情。一方、“世紀の大暴投”を犯した森は「手が滑った?違います……。みんなに申し訳ない」とうなだれていた。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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