※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 冷えや便秘対策などで、漢方の効用を実感する人は多い。しかし、西洋医学の観点から見ると、漢方は科学的根拠が乏しいといわれることもしばしばだ。漢方の科学的根拠についての研究は進んでいないのだろうか? 週刊朝日ムック『未病から治す本格漢方2020』では、北里大学東洋医学総合研究所臨床研究部上級研究員の伊藤直樹さんを取材した。

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 西洋医学の世界では、EBM──「Evidence Based Medicine=根拠に基づいた医療」が基本的な考え方になっている。

 EBMとは、科学的に行われた臨床試験などの結果に基づいた治療を行うことだ。被験者を無作為に割りつけた、ランダム化比較試験の複数の結果をまとめたものが一番エビデンスレベル(根拠の度合い)が高く、経験に基づく医療や専門家個人の意見に基づく医療は、エビデンスレベルの低いものと見なされる。あくまでも客観的な指標がなければ、エビデンス(根拠)があるとは認められないのだ。

 東洋医学は、西洋医学よりもはるかに長い年月にわたる経験に基づき、個々の患者の状態に合わせて薬の処方を行ってきた医療だが、近年、漢方の世界においても、西洋医学同様のEBMが求められるようになってきた。しかし、EBMを実践するという点では、漢方や東洋医学はなかなか難しい面もある。

「西洋医学の医師のなかには、漢方のEBMは『Experience Based Medicine =経験に基づく医療』や『Evidence Biased Medicine = 根拠にバイアスがかかった医療』だなどと皮肉る人もいます」

 そう説明するのは、北里大学東洋医学総合研究所臨床研究部上級研究員の伊藤直樹さんだ。

 東洋医学は、体系的な臨床試験の結果に基づいて行う医療というよりは、経験に基づいて蓄積されてきた知識にしたがって行うことが主で、しかも10人の医師がいると皆違う診断を下すといわれる。

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モデルマウスで有効性を検証