昔のドリフや志村のコントをいま見返してみると、その純粋なクオリティの高さに驚かされる。単純に思えていたコントも、実際にはちょっとした表情や動きや間の取り方によって成立している高度な職人芸だった。

 ネタの形式や内容も多種多様で、さまざまなアプローチを試みている。例えば、『全員集合』と『加トケン』と『だいじょうぶだぁ』のコントはそれぞれ全く別物だ。体を張って笑わせるネタもあれば、キャラが強いネタもある。それぞれが面白くて飽きさせない。

 数年前に志村の舞台『志村魂』を見に行ったことがある。生で見る志村は喜劇人として圧倒的なオーラを放っていた。目線や動きの1つ1つが笑いのための武器として研ぎ澄まされている。バカ殿のコントでは、足を高く上げて上島竜兵の顔面を蹴り飛ばす場面もあった。こんなに動けるのか。そしてこんなに面白いのか。ひたすら圧倒された。

 一方、2014年からNHKで不定期で放送されていた特番『となりのシムラ』では、俳優陣を相手に落ち着いた雰囲気のドラマ仕立てのコントを演じる志村の姿が新鮮だった。ドリフや志村の笑いはどうしても子向けの子どもイメージがあるのだが、この番組ではしっかり大人向けの笑いを見せてくれた。

 そんな志村は現在、新型コロナウイルス検査で陽性と診断されて入院中だ。撮影が予定されていた主演映画『キネマの神様』の出演も辞退することになったという。

 志村は2016年にも肺炎で入院していたことがあり、それまではヘビースモーカーだった。さらに、昔から酒浸りの生活が続いていた。70歳という年齢から考えても、新型コロナウイルスが重症化するリスクがきわめて高い状態であるのは間違いない。

 ただ、悪い可能性を考えていても仕方がない。日本中の人々を笑顔にしてきたあなたの仕事はまだ終わっていない。「志村世代」の私は、あなたが無事に退院して人々の前に元気な姿を見せて、「だいじょうぶだぁ」と言ってくれるのを待っている。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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