20歳で短大を卒業し、介護の仕事を始めました。仕事でつらいことはいっぱいありますよ。とくに初めてお看取りをしたときは「やめたい」とさえ思いました。朝、一緒にご飯を食べた人が、10時半ごろにお昼を誘いに行ったら、もう亡くなられていました。

 突然のショックで、その場を飛び出し、別の部屋にいる寝たきりのおばあちゃんに飛びついて、泣いてしまいました。おばあちゃんは突然の私の訪問に驚いていましたが、死を身近に感じている人に、今の出来事を話していいのかわからず、理由は言えませんでした。……私はただ泣くだけです。

 にもかかわらず、そのおばあちゃんは私の頭を優しくなでてくれました。唯一動く左手で、2時間も泣きやむまで。人が亡くなる現場にいることがこんなにもつらく苦しいのなら、私には介護の仕事は向いていないのかもしれないと思いました。しかしこの2時間がとても大きかった。この経験がなければ、介護をやめていたかもしれません。あのとき私を支えてくれたのは、手足が動く誰よりも、寝たきりのおばあちゃんだったのです。

 どうしてこんなに優しくできるのでしょう? あるおじいちゃんからは、「介護を受けるようになってからずっと死にたいと思っていた。でも、あなたに出会って、また生きたいと思えるようになったんだよ。ありがとう」と言われたことがありました。決して私の介護技術が特別高かったわけでもなく、もちろんモデルをしていたからでもありません。ただ一つ確かなことは、私自身がその人と会えることが楽しみでしょうがなかったということです。

 高齢になり要介護状態になると、友達や家族など、自分の存在を心から喜んでくれる人との接点は自然と減っていきます。体が不自由になったり配偶者が先に亡くなったりして、孤独感や喪失感などと葛藤する中で、自分の存在を心からうれしいと感じてくれる人がいる。それを感じてくれたことが、生きる意欲につながったと考えています。専門職として専門性の高いパフォーマンスをすることも大切ですが、存在が価値になるのが介護職だとも思います。

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発信したいのは「介護のある人生は豊かだ」