「グアム1-star大会」で優勝し、「ランカウイ島1-star大会」でもパートナーの鈴木千代(クロス・ヘッド)と最終日まで駒を進めた坂口由里香(大樹グループ)は、試合当日のドタバタを振り返る。

「朝食を食べているときに突然延期の情報が入ってきました。その日に移動だったので、大急ぎでキャンセル、変更手配を試合前にやりました。航空券やホテルの手配はすべて自分たちでやっています。本来なら入念にストレッチしたり、相手チームの動画を再確認したりする時間でした。まさかこのタイミングで……と思ったし、直前だし格安チケットなので、お金は返ってきません。そこからずっとソワソワして少なからずストレスはありました」

 坂口と鈴木のペアは3位決定戦のウォーミングアップ中、熱中症にかかり棄権という結果に終わった。2大会連続、炎天下での連戦は体に堪えたという坂口(由)は、過酷な環境においても免疫力が低下しない工夫が必要だと痛感した。

「今まではとにかくポイントを獲得するため、多くの大会に出て目の前の試合に全力を尽くすことを目標にしていました。でも、暑い国は体が火照って寝つけないときもあるし、自分でも気づかないうちに疲労がたまって体が動かない時もある。帯同トレーナーもいないので、その辺りは自分たちのコンディションに向き合ってどの大会に出るべきか、判断していかないといけない」

 その後、FIVBは5月までのワールドツアーも中止および延期を発表。東京オリンピックの延期を踏まえ、オリンピック出場条件の改訂を念頭に入れて協議を重ねているという。

 これまで世界を転戦して着実にポイントを溜め、東京オリンピック出場を夢見てきた坂口(由)は、「コロナウイルスの影響でこれまで経験したことがないことに見舞われ、てんやわんやでしたけど、今まで以上に自分の体と向き合う意識が高まりました。今は自分ができる最善のことをやるしかない」。

 このご時世、失ったモノばかりをついつい考えてしまいがちだが、そのなかで得たモノもある。今はそれを胸に突き進むしかない。(文・吉田亜衣)

●吉田亜衣/1976年生まれ。埼玉県出身。ビーチバレーボールスタイル編集長、ライター。バレーボール専門誌の編集 (1998年~2007年)を経て、2009年に日本で唯一のビーチバレーボール専門誌「ビーチバレーボールスタイル」を創刊。オリンピック、世界選手権を始め、ビーチバレーボールのトップシーンを取材し続け、国内ではジュニアから一般の現場まで足を運ぶ。また、公益財団法人日本バレーボール協会のオフィシャルサイト、プログラム、日本ビーチ文化振興協会発行の「はだし文化新聞」などの制作にもかかわっている。