長年、報道の世界で名を響かせてきた鷲尾さん。
写真週刊誌『FOCUS』(新潮社)の創刊から2001年に休刊するまでの20年間、事件や災害の現場を取材するほか、政治家や俳優、スポーツ選手、脚本家など、時代の寵児や著名人を写してきた。
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当然のことながら時代の最先端をいくフラッグシップ機も使ってきた。しかし、「オートフォーカスはほとんど使わなかった」という。
「ピントは手動で。なんか、手が勝手に動いちゃうんですよ。そりゃあ、いまのカメラはシャッターを切ればどこにでもピントが合って写りますよ。わかりやすく言えばね。でも、メーカーの人に言ったんです。『それじゃあ、俺はどこにいるんだ』って。要するに『道具』になっていないんですよ。いやだったのは、カメラに使われちゃっているような感じ。なんか自分の存在感がないみたいなんだよ。そういうものを詰め込んだものを、レンズを通して差し出すというか。写真って、そういうものじゃないですか」
熱い人である。
「まあ、写真を見てくださいよ」。そう言われ、「FOCUS」時代に撮影した作品のプリントをめくっていく。
グラウンドにたたずむ「打撃の神様」川上哲治と原辰徳監督。テニスコートでガッツポーズをする上皇と上皇后(左上の写真)。
思わず手が止まったのはSPを従えて闊歩する田中角栄元首相の姿だ(左中の写真)。ひと目で広角レンズで至近距離から写したことが見てとれる。しかも、大胆にも田中の目の前に立ちふさがるように真正面から撮影している。
「ぼくはだいたい真正面からいきます」
「そうは言ってもこれはちょっと撮れない状況でしょう」
道路に出てカメラを構えたとたんに排除されてしまいそうなシーンである。しかも鷲尾さんの顔はどちらかといえばコワモテ。要するに、「こやつ、何者」という面構えなのである。
そんなことを本人を目の前に思っていると、撮影の状況を説明してくれる。
「このときはライカM4かな。レンズはズミルックス35ミリF1.4の古いやつ。撮る前に3メートルくらいにピントを合わせて、いわゆる『置きピン』をしておくんです。それで、その距離まで向かっていく。後はヘリコイドをちょっと動かすだけで、ピントが合うようにしてある。ピントはほんとうに微調整。どういうふうに言ったらいいのかわからないけど、直感なのよ。それですばやく2、3枚撮ってきたわけです」