9回まで無安打無失点に抑えた投手が、延長戦の末、敗れるという不運に泣いたのが、2009年のPL学園vs南陽工だ。

 PLの左腕・中野隆之は、1回戦の西条戦では、“伊予のゴジラ”秋山拓巳との投手戦を1対0で制し、被安打5、奪三振11の好投。2回戦のこの日も、“津田恒実2世”岩本輝と息詰まる投手戦を繰り広げた。

 横手投げに近い独特のフォームから、打たせて取るピッチングに徹した中野は、初回を3者連続内野ゴロに仕留め、2回以降も安打を許さない。6回に死球の走者を出した以外は、パーフェクトの内容だった。

 だが、PL打線も毎回のように走者を出しながら、岩本を攻略しきれない。

 両チーム無得点で迎えた9回表、中野は南陽工の下位打線を3者凡退に打ち取り、ついに9回までノーヒットに抑えた。

 その裏、チームが得点すれば、04年のダルビッシュ有(東北)以来、5年ぶり史上13人目のノーヒットノーランが実現する。一打サヨナラの2死二塁、打席に立ったのは、くしくも中野だったが、カウント2-2からフォークで投ゴロに打ち取られ、試合は0対0のまま延長戦へ。

 そして10回、球威、握力が落ち、気力だけで投げていた中野は、1死から2番・竹重瑞輝に投げた102球目の直球を、ついに左前に運ばれてしまう。さらに2死から3連打を浴び、2点を失った。

 その裏、PLは2死満塁と最後の見せ場をつくるが、決定打を奪えず、1対2で敗れる。悲運の左腕は「自分さえ0点に抑えていたら負けなかった」と自らを責めて泣いた。

 7年後に無期限の休部という運命が待っていたPLにとって、これが最後のセンバツとなった。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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