今回の選挙結果を見るとネタニヤフ首相は再び事前の「世論調査」をひっくり返して、彼が党首の「リクード」党が全120議席のうち36議席を獲得し、議会で最大議席数となりました。ライバルのガンツ氏率いる「青と白」党は33議席です。興味深いことに、ネタニヤフ首相に投票した有権者は彼の汚職容疑を気にせず、彼のリーダーシップを評価したようでした。これも田中元首相に似ています。田中元首相も告発された後の衆院選で地元の新潟選挙区で大量得票し、再選されました。

 しかし、今回もネタニヤフ首相と連立する右派の議席数は過半数を占めるのに必要な61議席を下回る58議席です。一方、対立する会派は汚職事件の容疑者が首相を務めることを禁止する法律を可決して、ガンツ氏が率いる新政府に道を開くことを計画しています。

 なぜネタニヤフ首相は、直面しているすべての政治的スキャンダルと刑事告訴にもかかわらず、依然として多くの支持を得ているのでしょうか? 私が考える最も妥当な理由はイスラエル人の“アイデンティティー投票”傾向です。これはイスラエル人がイデオロギーよりも、自分が所属する社会集団に従って投票する傾向があるという意味です。

 イスラエル国民(人口900万人)は現在、同じ国に住んでいるにもかかわらず、実際は非常に多彩です。四つの主要な社会グループをここでは「部族」と呼びます。最初の二つの部族は、主にヨーロッパ諸国で生まれ、イスラエル建国前に来たユダヤ人の子孫であるアシュケナージ族と、中東や北アフリカのイスラム地域で生まれたユダヤ人で独立後にイスラエルに移住した人々でつくられたミズラヒ族です。歴史的な理由により、ミズラヒ族の有権者は右派のリクード党に投票する傾向があり、アシュケナージ族は中道および左派政党に投票する傾向があります。

 3番目の部族はユダヤ宗教族で、イスラエルでよく黒い帽子と黒い服を身に着けている超正統派の人々です。彼らにとってユダヤ教義(トーラー)は、自身のアイデンティティーの中心であり、それによって住む場所、選ぶ仕事の種類、そしてどの候補者に投票するかを決定します。この部族は、伝統的にイスラエル議会でネタニヤフ首相と連合している二つの宗教政党「シャス」と「統一トーラーユダヤ」党に投票します。

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