「医師でもわからない」局面があることが、患者さんやご家族にきちんと伝わらないと、残念ながら不満を残してしまう結果となります。今回の白河さんの件では、主治医が当事者である家族の葛藤を想像することができず、一方的な意見を伝えた結果、コミュニケーションエラーが起こり、白河さんに大きな不満を残しました。

 命が大事なのは当然です。それは大前提の上で、家族にしかわからない関係や思いがあるはずです。

「父親に手術を受けさせない」という選択をすれば、娘である白河さんたちは「父親を見殺しにする」という罪悪感を乗り越えての決断となります。ましてや認知症の問題もあり、簡単に答えを出せるものではありません。

 残念ながら、父親の意思はもうわかりません。認知症になる前であれば手術を望んだかもしれませんし、後遺症が残る可能性があるなら手術は選ばないかもしれません。

 現実は、ドラマのような感動ストーリーで終わることのほうがむしろ少ないと思います。

 白河さんからの話は、自分の診察室での言動について改めて考えさせられました。私たち医師は、患者さんとその家族が後に後悔を残すような言葉を言ってはいけないのだと思います。自戒を込めて。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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