ふふふ、セツさん、楽しい方だ。でも、昭和4年生まれで、戦争中は学徒動員で紡績工場に働かされ、何度も空襲に遭った。兄弟姉妹も戦死や病死し、「22歳まではいっぺんもいい時なし」という人生だったそうだ。24歳で結婚してからも養鶏や何やら働きづめで、平成になってからは娘さん夫婦が営む喫茶店で働いた。働いて働いて、働きづめの人生だった。

「働くことは好きです。ジッとしてるのは嫌いです。娘や孫は『ちょっと動きすぎるよ、休憩せなあかんよぉ』言いますねんけどな。腰かけたら石になる性やから、身体が続く限り動きますねん。ちぎり絵も元気である限り、作らせていただきます」

『90歳セツの新聞ちぎり絵』。人は何歳になっても新しいことを始められるし、意外なことが起こるし、自らに発見もある。生き甲斐は身近にあり、日常は宝だ。そんなことも教えてくれる素晴らしい本。今この大変なときにこそ、多くの人に手に取ってもらいたい。

 ちなみにお話をお伺いしたときは「うるめいわし」のちぎり絵作品にとりかかっていると、セツさんは話されていた。

「コロナで家にいます。ちょっと買い物に連れて行ってもらうのに、マスクせなあかんと言われるもんやから。私、マスク嫌いでね。素で歩くのが一番ね。でも消毒で手洗って、うがいちゃんとせな、娘は家に入れてくれません。ふふふ」

 セツさんは今日も、新聞紙をちぎり、作品作りに励んでいるんだろう。

●和田静香(わだ・しずか)/1965年、千葉県生まれ。音楽評論家・作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦が高じて最近は相撲についても書く。著書に『スー女のみかた 相撲ってなんて面白い!』『東京ロック・バー物語』など