「ブロッコリーのは一番好きです。あれね、ちょっとの時間にですね、山々の写真を5~6枚継ぎ足しましてね、少し赤みのかかったところと、青々したところと、形に添ってきりましたら、もこもことしてね。娘に『お母さん、よぉこんなに早く作ったなぁ』と、えろう誉めてもらいまして。貼ったもんがね、よぉ見えたんかしてね」

 言われてジッとブロッコリーのちぎり絵をじっと見ると、なるほど本当に山だ。山の写真をうまくちぎって組み合わせ、もこもこっとしたブロッコリーのかんじが巧みに表現されている。セツさんのセンス、すばらしい! しかし、よくぞ、これだけの写真、色を集めてくるものだ。私のお気に入りのトウモロコシのちぎり絵など、一粒ずつ色合いが微妙に違って、その味わいたるや。すばらしいのだが。

「トウモロコシは黄色のちょっとグラデーションになるところがなかなかなくってね。黄色は(新聞には)少ないですよ。これはだいぶ時間がかかりましたけど、どうなりこうなり出来ました。色を探すのが大変です。貼るのはだいたいね、ようできますけどね、色探しで時間をずっと食います。1つ作るのに早いので6~7時間、いったら7~8時間かかりますやろね。私、途中で止めるのは嫌いやからね、遅くなっても仕上げたいと思いまして、寝るのも忘れてする言うて、娘に笑われますねんけど、最後の最後までしたいから、『明日にしたら』言うてくれましてもイヤ言うて、作りあげますねん」

 グラデーション! 失礼ながら91歳のおばあちゃんからそんな言葉が飛び出てくるとは……いやいや、そうじゃない。娘さんから勧められて始めたちぎり絵だけど、これはもう芸術作品だ。特に美術の専門教育を受けていない人の作ったアート作品を「アールブリュット」と呼ぶが、この新聞ちぎり絵もアールブリュット作品の一つであり、セツさんはアーティストだ。

■「好きな食べ物を作りたいなぁと思うて作ります」

 ところで、セツさんの作品のすばらしさは、日ごろの生活から生まれてきた点にある。選ぶ素材は身近なものばかり。野菜や果物や魚など、食べ物が多い。ちなみに新聞で作るのも、娘さんの勧め。新聞の写真には、景色やらいろいろあるからいいんだそう。

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