寝るのも忘れてちぎり絵に没頭する木村セツさん(撮影/佐伯慎亮)
寝るのも忘れてちぎり絵に没頭する木村セツさん(撮影/佐伯慎亮)
ブロッコリー
ブロッコリー
剣先イカ
剣先イカ
うるめいわし
うるめいわし

 ページをめくる度に頬と心がゆるむ。ほっこりする。ふーっと息を吐いて、コロナ禍で気張って固まっていた肩がちょっとやわらかくなる。さらにじっくり見つめると、色使いの美しさや、対象をよくよく観察した洞察力に驚く。

【画像】セツさんの最新作「うるめいわし」

『90歳セツの新聞ちぎり絵』(里山社)。タイトル通り、90歳で新聞を使ったちぎり絵を始めた、奈良県在住の木村セツさんの作品集だ。

 ちぎり絵?と言ってもピンとこない人もいるかもしれない。本を見てもらえば一目瞭然だが、セツさんは主に身近にある食べ物を題材に、下絵を描き、新聞から色を集めてちぎり、貼りあわせて行く。今年の1月で91歳になったセツさん。始めたのは昨年の1月1日、元旦。作品を作り始めてまだ1年ということに、また驚く。

「主人が2018年の11月30日に亡くなりました。90歳でした。病院に入る前に『(年齢が)なんぼになっても勉強しなくちゃいけません』と言ってくれて、それが遺言みたいになって、目標にしてやってるようなもんです。ちぎり絵は一緒に住んでる娘が『お母さん、こんなのどう?』言うて、勧めてくれましてん。初めは私もぜんぜん、いやや、図画が大嫌いやからな、そんなんできんよ言うてましてんけど。娘が『お母さん、何かせんな頭ぼけてくるよ。TVばっかり見て、居眠りしてばかりじゃだめよ』と言うてくれたんがきっかけになりまして、それで乗り気になりました。どんどん作って娘や孫娘が『こんなんすばらしいのするようになって!』言うて、孫が『私がツイッターに出したる』って言うてくれましたんです。そしたら、ブロッコリーのが200人だか、素晴らしい言うてくれたそうで、涙出ますねん」

■「ブロッコリーのは一番好きです」

 奈良に住むセツさんに電話でお話を伺ったが、やわらかい関西弁にこれまたほっこりする。しっかりと話され、91歳というお年を感じさせない。それにしても200人というのは謙遜しすぎ。お孫さんのイラストレーター、木村いこさんが19年2月にツイートしたブロッコリーのちぎり絵には、現在までに3万4千の「いいね」が付いている。そのツイートは瞬く間に話題を呼んで、TVやウエブサイトの取材が当時、殺到したそうだ。

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