一方、別の解決方法には「心理的解決」があります。ざっくりいうと、地理的解決が物理的な距離を取る方法であるのに対して、心理的解決は心のなかで距離を置く方法です。

 あまりうまくやっている人を見かけませんが、よく耳にする「夫を他人と思えばいい」「ATMと思えばいい」というのは、そういう方向性です。ただ、これがあまりうまくいかないのは、夫を他人と「思おう」としているだけで、本当はそう感じていないからです。自分をだますことはできないのです。

 夫婦で自営業をやっている方が四六時中二人でいてもなんとかやっていけるのは、二人とも商売やお客さんのほうに意識が向いているので、物理的には一緒にいても、心理的には向き合わない、つまり距離があるからといことも多くみられます。サラリーマン家庭だと、夫婦が子どもやペットのほうを向くことで心理的距離が近づきすぎないようになっている(している)というケースもあります。そういうのも無意識のうちに心理的距離を保つための生活の知恵だと思います。

 とりあえず何かまず簡単にできることとしては、相手に何か言われたときに、「あなたはそう思うのね」と心の中で言ってみてください。実際に言ってみてもいいです。それが心理的に距離を置くための一つの方法、第一歩です。(文/西澤寿樹)

※事例は事実をもとに再構成しています

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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