とはいえ、10時間近くかかる手術の場合、外科医も集中力を持続しづらい。かつては長時間でもそのまま手術を持続することが美徳とされていたこともあるが、近年は長時間に及びそうな場合、集中力が落ちないように途中で30分程度の休憩をはさむことが多いという。その間に食事や排泄ができる。

Q:手術時間を測るのはなぜ?

A:患者に伝えたり医師が適切な時間を知ったりするため

 手術室には、現在の時間を知るためのアナログ時計、手術と麻酔の経過時間を知るためのデジタル時計が設置されている。手術時間は患者に提供する手術記録に必ず記録する。

 手術が長時間に及ぶと、患者の負担が大きくなる。例えば血栓が肺の血管につまる肺塞栓症や褥瘡(床ずれ)のリスクなどが高くなる。また、全身麻酔の場合は人工呼吸器を装着するが、長時間になると咽頭や声帯がむくむことがある。

 こうしたことから医師は適切な時間の感覚を持つ必要があり、手術中に何度か現在の時間を確認する。

Q:手術室での麻酔科医の役割はなに?

A:安全性を最優先し、手術の進行や患者の状態を監視・コントロール

 手術における麻酔科医の役割は、まず患者の安全を確保し、手術の進行や患者の状態を監視、コントロールすることだ。そのほかに「疼痛管理」「呼吸管理」「循環管理」がある。疼痛管理は、麻酔薬や鎮痛薬を投与して、患者が痛みを感じないようにし、痛みが強い場合には手術中に麻酔薬を追加することもある。

 手術での操作をしやすくするために、筋肉をやわらかくする筋弛緩剤が必要となる。筋弛緩剤により自発呼吸ができなくなり、人工呼吸が必要になるため、気道を確保し、管を入れる(気管挿管)。こうした呼吸管理も麻酔科医の重要な仕事だ。

 循環管理では、血圧や心拍数を常時チェックし、異常があれば適切な処置をおこなう。がん研有明病院副院長・麻酔科部長の横田美幸医師はこう話す。

「外科医が手術に集中できるように患者の全身を管理するのが麻酔科医の役割。ただし、麻酔科医にとって手術中の仕事は一部で、麻酔方法の選択、リスク因子の確認など術前の評価からはじまり、麻酔計画、術後も痛みの管理や合併症予防などに関わります」
(文/中寺暁子)

≪答えてくれた医師≫
がん研有明病院 副院長・麻酔科部長 横田美幸 医師
がん研有明病院 消化器センター長 福長洋介 医師

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』より