人と馬とどちらが速いか?消化試合では観客数2000人と閑古鳥が鳴くことも珍しくない西宮球場に、なんと2万8千人のファンが詰めかけ、固唾をのんで人馬対抗レースを見守った。

 ところが、競馬場と勝手が違って混乱したのか、ジンクピアレス号はスタートと同時にあさっての方角に走り出したため、実質福本とバンプの一騎討ちとなり、バンプが7秒6のタイムで1位になった。

 集客には成功したものの、福本は「もう懲り懲りです。今日は球団が先に発表してしまったので、仕方なかったけれど」と複雑な表情。

 対戦相手・近鉄の選手会長を務める梨田昌孝も「同じ野球選手として寂しい。我々は見せ物ではない」と遺憾の意を表明した。

 それから2年後の85年10月9日、当時のパ・リーグで比較的人気があった西武が近鉄戦(藤井寺)で優勝を決めたときも、観客数6000人と寂しいものだった。そんな暗黒時代があったことを知らない人も多いはずだ。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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