しかし、スポーツドクターの仕事が、相応の報酬がないままに、熱意とやりがいだけで成り立っているようでは問題があるといえるでしょう。

 現状として、会場ドクターの仕事は、医師免許があればすることができます。しかし本来は、現場で起こるスポーツ特有のけがや脳しんとうなどを的確に診断して対応するために、きちんとしたスポーツ医学の知識を持ったスポーツドクターが会場ドクターになることが望ましいのです。現在、スポーツドクターの教育制度はまだまだで、今後は十分なスポーツ医学の知識を持ち、さらに現場での経験を積んだスポーツドクターが専門医として評価されるような教育制度ができることが期待されます。

 誰もが知るように、スポーツの価値は、心と身体を健康にするだけにとどまりません。競技スポーツの世界は、頂点に向かって限界に挑戦し、卓越した身体能力を発揮する選手の姿、一途で真剣なまなざし、フェアプレーの精神、仲間を信頼し合うチームワークなど、見る人にとっても多くの感動を与えてくれます。

 今年の夏のオリンピック・パラリンピック東京大会で、世界のトップレベルの競技が見られるのが、いまからとても楽しみです。日本でも、より多くの人たちがスポーツ観戦を楽しみ、その面白さに魅了されることで、今後のスポーツ界がよりいっそう盛り上がり、スポーツドクターの活躍する場面がますます増えていくことでしょう。

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松本秀男

松本秀男

松本秀男(まつもとひでお)/医師。専門はスポーツ医学。1954年生まれ。東京都出身。1978年、慶応義塾大学医学部卒。2009年から2019年3月まで、慶応義塾大学スポーツ医学総合センター診療部長、教授。トップアスリートも含め多くのアスリートたちの選手生命を救ってきた。日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長。

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