「近年は本来の調子ではなかったように見えた。アスリートの宿命というか、年齢的なものもあり、しょうがない部分もあったと思う。そこでどうするか、を僕自身は注目していた。でも、球児は球児だった。これまでと同じだったら引退だ、という気持ちもあったはず。そういう気持ちの中で自分を見つめ、鍛え直したのではないか。シーズン中でもかなり追い込んでいたという話も聞いた。そこで抑えを任されれば、燃えないわけはない。メンタルの強さがフィジカルを上回ったとも言える。そういう部分が伝わるから、見ている我々も気持ちが揺さぶられるし、応援したくなる。カッコいい投手。精神論ばかり言うのはあまり好きではないけど、最後に大事なのはメンタルというところを球児は見せてくれている」

 一方の松下氏は2003年から阪神担当として藤川と接してきた。2008年には『ストレートという名の魔球』(ヨシモトブックス)を書き上げ、表には出てこない藤川の本音を紹介している。

「球児は誰よりもチームを大事に考えている。チームワークを重視し、後輩の面倒見も良い。練習はもちろん、時にはプライベートでも若手や外国人選手に寄り添って、可能な限りアドバイスなどもする。自ら率先してチームを牽引するタイプ。優勝できなかった2007年などは本当に印象深い」

 その年の阪神は9月に首位に立つも、息切れしてシーズン3位で終了。クライマックスシリーズも連敗で早々と姿を消したが、そのなかで最後まで先頭に立って戦った藤川の姿を忘れられないという。

「最近の球児は『二重人格』を自ら演じているように見える。野球選手としての球児とイチ私人としての球児。年齢的に残りの野球人生が長くないのは、本人が最も自覚している。今まで同様、チームのことだけを考えてやっていれば、自分自身もダメになると感じたのではないか。投手として最大限の能力を発揮して戦力になるために、グラウンドを離れた時にはすべてを切り替える。父親、趣味人、友人との時間など、ある意味、野球人を捨て去っているようでもある」

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藤川は「数字にこだわる男ではない」