美容目的の再生医療には、「肌細胞補充療法」があります。自分の細胞を取り出して培養した上で、その細胞を注射で肌に移植するのです。再生医療で肌の細胞が増えると、「コラーゲン」や「ヒアルロン酸」などの産生量も増加して、肌のハリや潤いを蘇らせることができ、シワやたるみを改善されます。一方、老化現象で衰えた肌細胞を活性化させるため、自身の血液成分を使用した「PRP皮膚再生療法」もあります。

 このように肌の再生医療は、肌の細胞を増やして活性化することで、肌のハリや潤いを蘇らせ、老化現象を食い止めることに寄与します。ただし、肌の細胞を若返らせることはできません。

■分裂ができなくなった細胞は死を迎える

 そもそも老化は、ひとつひとつの細胞によって左右されています。細胞の老化は医学的にまだわからないことがありますが、細胞分裂の回数が減っていくのが老化の始まりといわれます。人間の細胞分裂は50回程度が限界とされ、これを「ヘイフリック限界」と称します。分裂ができなくなった細胞はやがて死(アポトーシス)を迎え、これを「細胞老化」と称します。細胞老化で細胞数が減り、臓器や組織を維持できなくなって人間という個体の死(老衰)に至る。つまり、老化を阻止するには、細胞老化を食い止めなければならないのです。

 20歳を過ぎた頃には細胞老化が始まってアポトーシスの細胞が増え始る一方で、紫外線や体内で生じる活性酸素、ウイルスなどによっても細胞は破壊され、人間の個体としての老化が、個人差はありますが進んでいきます。10代の肌と30代の肌は異なり、30代と50代もしかり。シワやたるみが目立つようになってシミも生じます。心肺機能や胃腸の働きなども低下していくでしょう。

「肌の再生医療で若返る」。 これは、肌の老化現象の進行を遅らせるイメージになります。1回、肌の再生医療を受けたからといって永遠の美が手に入るわけでもありません。とはいえ、若返りの再生医療は、今後も進展していくと思っています。超高齢化社会の日本をはじめとする先進国では、老化現象を食い止めることへの関心が高いからです。肌のシワ、たるみ、シミ、さらには、骨がスカスカになる骨粗鬆症、すり減った軟骨、細くなった血管などの老化現象は、再生医療で修復が可能です。細胞老化は食い止められなくても、細胞や組織を補うことで老化現象を改善することはできます。そうはいっても、くれぐれも再生医療で、永遠の美や不老不死が手に入るとは思わないようにしてください。

○北條元治(ほうじょう・もとはる)/ 株式会社セルバンク代表取締役、RDクリニック顧問、東海大学医学部非常勤講師、形成外科医、医学博士。1964年、長野県生まれ。91年、弘前大学医学部卒業。信州大学医学部附属病院勤務を経て、ペンシルベニア大学医学部で培養皮膚を研究。帰国後、東海大学医学部にて同研究と熱傷治療に従事。2004年、細胞保管や再生医療技術支援を行なう株式会社セルバンク設立。05年、RDクリニック開設に際し、培養皮膚の特許を取得。著書に『医者が家族だけにはすすめないこと』『化粧品を使わない!    
水とワセリンで美肌になる』など。