両医師ともに、病院選びの指標の一つとして、「手術数は参考になる」と話す。人工物を入れる手術では「いかに正確に設置するか」が重要だからだ。

「年間100件実施していれば、医師や看護師などのスタッフもある程度手術に慣れていて、技術力があると言えるでしょう。さらに再置換術も実施していれば、それなりの経験があると評価できます。再置換術は他院からの紹介で実施されることも多いからです」(杉山医師)

「地域によりますが、最低でも年間100件。できれば150件以上が理想的です。公式ホームページに手術数を掲載している病院もありますから、その数や医師の技術、人柄、相性などを総合して病院を決めたらいいと思います」(中田医師)

 技術や人柄を判断するために、診察時にしっかり聞いておきたいのが、手術のリスクの説明だ。

「その病院での、術後の脱臼や感染症などの合併症の発生率を医師が把握しているかどうかが大切です。ガイドラインで発表していますが、脱臼率は初回で1~5%、再置換術で5~15%、感染症の発生率は0・1~1%が目安です。例えば、下半身の血流が停滞して血液のかたまりができる深部静脈血栓症から肺梗塞になると、緊急搬送になることがあります」(杉山医師)

 中田医師も、「合併症のリスクは必ず確認を」と語る。

「発生してしまうと、早期の社会復帰に関わります。私としては、感染は1%、脱臼は1%未満が目安だと考えています。また、手術の進入法といって、股関節の前側・後ろ側のどちらから切開をするのかで、さまざまな手法があります。患者さんの形態や希望の生活スタイル、医師の考え方などによって決められますが、脱臼率は後ろ側からのほうが少し高いです。前側からの手術では術後の動作制限は必要なく、指導していません。一方、後ろ側から手術をする場合は、関節包靱帯を温存して術後の動作制限をしない方法を採っています」(中田医師)

 杉山医師は、術後についてこう話す。

「若い人であれば術後にしてはいけない動作はほとんどありません。スポーツではゴルフとダブルスのテニス程度は可能です。ただし腰が硬い人は股関節への負荷が大きくなるので要注意です。体重がかかるだけであれば問題ないのですが、足を思いきりねじる動き、内ももを床につけて座る座り方、和式トイレの使用、マラソンなどでは注意が必要です。これらの動作をおこなうと人工関節が早くすり減ったり、脱臼の危険性も高くなります。術後のリハビリや、何か起きた場合のフォローをしてくれるか、対応方法も事前に確認してください」(文/小久保よしの)

≪取材した医師≫
神奈川リハビリテーション病院 病院長 杉山 肇 医師
JCHO大阪病院 人工関節診療部長・人工関節センター長 中田活也 医師

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』より