通常、膀胱全摘除術の前に術前補助化学療法をおこなうことで、死亡率の低下と生存期間の延長が明らかになっている。膀胱を全摘除した後におこなう尿路変向術は、回腸導管造設術が多い。

一般的に、膀胱がん治療を実施している病院は、膀胱全摘除、TUR-BTのどちらもおこなっている。膀胱がんの約70%が筋層非浸潤がんであることから、TUR-BTの症例数のほうが多いのが普通だ。

「膀胱全摘除、TUR-BT、いずれも技術的に難度が高いため、手術数の多い病院を選ぶことをお勧めします。膀胱がんは前立腺がんなどに比べて患者数はそれほど多くないので、年間、膀胱全摘除で10~20例、TUR-BTで100例やっていれば、技術・経験値の点で信頼がおけると考えます」(藤井医師)

 ロボット手術は保険適用になって時間が経っていないため、実施している病院はそれほど多くない。現在、手術法については、それほどこだわる必要はないと、松井医師は話す。

「何よりもまずがんの根治性と、尿路変向に伴う合併症(組織を縫合した場所からの出血や尿漏れなど)を抑えることを優先して、治療法を選択してください。開腹でも腹腔鏡でもロボット手術でも、それらに差がないと医師に言われたら、ロボット手術を選ぶのもいいでしょう」

 開腹手術で実施されることが多い尿路変向術だが、一部の病院ではロボット手術で実施されている。出血量が少なく術後の回復も早い手術を望む場合は、尿路変向術に対するロボット手術の適応も含めて、主治医に相談してみよう。

 膀胱がんは再発・多発しやすく、比較的進行が速いものが多い。初診時にすでに転移があって手術適応外となるケースも少なくない。その場合は薬物療法がおこなわれる。17年に尿路上皮がんにも保険適用となった免疫チェックポイント阻害薬ぺムブロリズマブ(商品名・キイトルーダ)により、生存期間を延ばせるケースも出てきている。

「免疫チェックポイント阻害薬は副作用が多岐にわたり、服薬管理が難しいのがデメリットです。患者さんに合わせた服薬のサポートをおこなうには、やはり手術数も多く、膀胱がん治療に積極的に取り組んでいる病院がいいでしょう」(藤井医師)
(文/別所 文)

≪取材した医師≫
東京医科歯科大学病院 副病院長 泌尿器科科長・教授 藤井靖久 医師
国立がん研究センター中央病院 泌尿器・後腹膜腫瘍科 病棟医長 松井喜之 医師

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』より