■『世界標準の経営理論』は『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編を目指した本

 論文や本を書く行為はクリエイティブな作業だから、クリエイターの思考には興味がある、と入山は言う。

 特に目下、感服しているのが『進撃の巨人』の諫山創と『HUNTER×HUNTER』の冨樫義博。入山は伏線を入念に仕込んで最後に大きなカタルシスを作るタイプの作品が好きだというが、「最初から全体像が見えていてゴールから逆算して描いているのが諫山さん、とりあえず始めてしまうんだけれども描きながらものすごく考え抜いているのが冨樫さん、という印象です。そして僕が『世界標準の経営理論』の元になった連載を始めるにあたっては、『ハーバード・ビジネス・レビュー』の岩佐文夫編集長(当時)に『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編を念頭に置いて書きます、と伝えてスタートしたんです(笑)」。

『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編はまさに入念に練られた伏線に満ち、驚きの展開が待っている、現代最高峰のストーリーのひとつと言っていい作品だ。マンガ好きなら「志が高すぎないか?」と思ってしまうだろう。

「ところが岩佐さんはマンガのことをまったく知らないので『HUNTER×HUNTER』のことをネットで調べて『休載が多い』という情報を得て、どうも僕が休みたがっているらしいと誤解したんですけどね(笑)」

『世界標準の経営理論』では、慣れ親しんだ領域をさらに極める「知の深化」と、新たな領域へのチャレンジである「知の探索」とをともに推し進める「両利きの経営」がビジネスでは求められる、と説かれている。

 それとは意味は異なるが、現在の入山の仕事はサブカルと経営学とを長年にわたって「両利き」で探求してきたからこそ生み出されたものだ、と言えるだろう。(文/飯田一史)