国際オリンピック委員会(IOC)の最古参の委員であるディック・パウンド氏はAP通信のインタビューに対し、遅くとも5月下旬にはオリンピック開催の判断をしなくてはならず、それまでに事態が好転しない場合、中止もありうると話している。IOC東京五輪調整委員会のジョン・コーツ委員長も、パウンド氏の考えを否定しなかったとオーストラリアの新聞は伝えている。中止ではなく開催するとしても都市の変更、3カ月または1年の延期、無観客大会とあらゆる方策が挙げられている。しかしそれには、なぜ東京五輪を開くのかという問いに答えなくてはいけない。

 総額3兆円ともいわれている経費を注ぎ込み、国内で32兆円と試算した経済効果のために五輪を行うというのであれば、どの方策も受け入れられず、リスクを背負って開催することになる。しかし中国はもとより、イスラエル、サウジアラビアなど日本からの入国制限を設けている国、渡航アラートを出しているアメリカも含め多くの国の選手団、観客はやって来ない可能性はある。それでは世界中の選手を集め、平和な社会と人類の発展を目指すオリンピズムの精神からは外れてしまうだろう。逆に、優れたアスリートの素晴らしいパフォーマンスを観るため、五輪を通じスポーツの文化を高めるためというのであれば、変更や延期など柔軟な対応も可能になるのではないか。

 IOCが開催可否の権限を持っており、時間はあまりないことは確か。昨年行われたビーチ系スポーツの総合競技大会「ANOCワールドビーチゲームズ」は、開幕4カ月半前にアメリカ・サンディエゴが開催権を返上。代替都市をカタール・ドーハに決め急ピッチで準備を行ったが、本当にギリギリの作業だったと主催者のANOC(国内オリンピック委員会連合)の関係者は話していた。

 東京五輪の場合、パウンド委員ももう開催都市の変更は難しいと語ったとされる。しかし、他の方策を選択する(もしくは選択しない)としても、ワールドビーチゲームズの例でも分かるように計画の変更には時間が必要になる。ウィルスの感染を抑え込みながら大規模なスポーツイベントが円滑に行えるのか、様々な制限がある中で選手、観客はどう感じるのか。ほぼ開幕4カ月半の今、行われる東京マラソンにその意味でも注目したい。(文・小崎仁久)