胃のESD治療は、いまや難しい手技ではなく標準的な治療になっている。難しい症例でなければ中規模以上の病院でも対応できるため、患者が分散して1病院あたりの治療数が少なくなってきている。野中医師は、だからこそ注目してほしいポイントがあると説明する。

「自分が難しい症例と言われた場合、前年比で増加しているかどうかもチェックしてほしい。1病院あたりの治療数が減っているなか、それでも数を伸ばしている病院は難しい治療が集まっているといえるでしょう。症例数でいえば150例以上であることが、難しい治療を受ける場合の目安になります」(野中医師)

 週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』のランキングでは示していないが、「完全一括切除率」「治癒切除率」「穿孔率」も病院の実力がわかる大事な数字だ。病院によってはホームページに公開されているのでチェックしよう。

「完全一括切除率はESDでがんが局所で取り切れたという指標。治癒切除率は完全一括切除に加え、転移リスクがないと判定された割合を示し、ESDで完全に治癒をした率を表します。完全一括切除率は95%以上、治癒切除率は80~90%がいい数字でしょう。穿孔率は、治療の際に穴が空いてしまう確率で、3~5%なら技術的に安定しているといえます」(鈴木医師)

 胃がんの治療法は内視鏡治療、外科手術、薬物療法がメインだ。どれか一方に偏っている病院にも気をつけたい。

「外科手術とのバランスもとても大切です。内視鏡医と外科医がよく議論して治療の適応を決めている病院は、ESD・外科手術ともに安定した治療数になると思われます。いい病院を選ぶ指標にもなりえます」(野中医師)

 治療数はいい病院の指標になるが、治療前後で通院をする必要があるため、通院可能な範囲で病院を優先して選ぶことも大切だ。かかりつけ医がいるようなら、紹介してもらうと不安は少ない。

「かかりつけ医はたくさんの患者さんを紹介し、治療後の状態をみています。いい状態で帰ってきたかどうかをよく知っているので、地元の病院ではどの病院のどの先生がよいかという情報もよく知っています」(鈴木医師)
(文/濱田ももこ)

≪取材した医師≫
千葉県がんセンター 内視鏡科部長 鈴木拓人 医師
埼玉医科大学国際医療センター 消化器内科准教授 野中康一 医師

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』より