ただ、その対談の頃には、木村はもう結婚しており、妻となった工藤静香がやっかみを買う立場になっていた。一方、松はもともとやりたくない仕事はしない人だから、活動の中心をじっくり取り組める映画や舞台に映していった印象だ。

 07年には、ミュージシャンの佐橋佳幸と結婚。日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞に輝いた映画「ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~」(09年)や「告白」(10年)を経て、15年に長女を出産する。

 そして、出産前後には芸能生活二度目のピークを迎えることとなった。14年、アニメ映画「アナと雪の女王」の日本語版で歌った「レット・イット・ゴー」が大ヒット。17年には主演ドラマ「カルテット」が高い評価を受け、さらに「明日はどこから」で3度目の「紅白」出場を果たす。自ら作詞作曲を手がけ、夫が編曲した朝ドラ「わろてんか」の主題歌だ。

 このあたりで彼女は「雲の上の人」になったといえる。もはや、バッシングを寄せつけないような、芸能界でも超然とした存在だ。ただ、本人は「みんなを圧倒させる大女優」より「忘れてもらえる女優」が理想だとして、こんな理由を語っている。

「作品を見ようという動機自体は、俳優や女優目当てでもいいんですけど、大切なのは、作品の鑑賞後、心が動くこと。私の名前が頭に残ることが大事ではない。(略)その人の心が動く時間になればいいな、と思いますし、そんな演技ができる女優になりたいです」(「JAF Mate」17年11月号)

 こういう演技観も、ガツガツしないで済む立場ならではかもしれない。また、こんな人だからこそ、バッシングにも崩されなかったのだろう。当時、事務所はかなり不愉快に感じていたそうだが、彼女自身がキレることはなかったらしい。いわば「金持ちケンカせず」的なスタンスを貫いたことも、そのシンデレラストーリーを成功に導いたのだろう。

■ヤマザキパンCMの彼女らしさ

 そんな彼女らしさをある意味、芝居や歌以上に感じられるのが、ヤマザキパンのCMだ。94年から途切れることなく出演中。なんでも、最初にオファーしてもらったスポンサーなので、本人が恩義を感じ、安めのギャラで継続しているという。

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江戸期以来の高麗屋のDNA