(イラスト/寺平京子)
(イラスト/寺平京子)

 週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から回答を得た結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。病院ランキングだけでなく、治療法ごとの最新動向やセカンドオピニオンをとるべきケース、ランキングの読み方などを専門の医師に取材して掲載している。ここでは、肝がんの治療法の一つ、「肝がんアブレーション治療」の解説を紹介する。

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 肝臓がんの根治的な治療の選択肢は、手術だけではない。皮膚の上から電極針やアンテナ針を差し込み、がん細胞を焼き固めるアブレーション治療(穿刺局所療法)がある。日本肝臓学会の「肝癌診療ガイドライン」によると、肝臓機能が比較的保たれ、腫瘍の大きさが3センチ以下、3個以内であれば手術とともに推奨される。身体的な負担も小さい。国内では1999年ごろから、ラジオ波(AMラジオとほぼ同じ高周波数の電流)によって熱を発生させて焼灼する方法が広く実施されてきた。

 最近では、マイクロ波でがんを焼灼する方法が注目されている。マイクロ波は、電子レンジなどで使われる電波だ。以前はラジオ波に比べて焼灼範囲が狭かったが、2017年に承認された機器によるマイクロ波(次世代マイクロ波)はより広い範囲を素早く焼灼させる。

「がんそのものを焼く時間は、ラジオ波なら15分ほどですが、マイクロ波は5分以下です」と話すのは、慶応義塾大学病院の谷木信仁医師だ。

「ラジオ波は1回で焼ける範囲が限られ、何回か刺す必要があります。一方、次世代マイクロ波は熱が球形に広がるので、病巣の中心部に一度刺すだけで広い範囲が焼ける。穿刺回数と治療時間を減らせるため、身体的負担を軽減できます」

 ただし、マイクロ波を通す針はラジオ波より太く、金属ではないため少しやわらかい。

「針を刺すときには、独特のコツをつかむ必要があります」(谷木医師)

 国立がん研究センター東病院の池田公史医師は、「肝臓がんの治療でもっとも進歩しているのは分子標的薬です」と話す。

 17年まで、肝がんの薬物療法として選択できる薬剤はソラフェニブのみだった。17年に新たにレゴラフェニブが登場し、ソラフェニブが効かない場合などの2次治療薬として使用されている。18年に登場したレンバチニブは、ソラフェニブよりも腫瘍の縮小効果が認められている。さらに19年には、ラムシルマブも2次治療薬として承認され、現在は4薬になった。

「海外でよい成績をあげている薬もあり、今後はさらに増えるでしょう」(池田医師)

■セカンドオピニオンとるべきケース

 アブレーションに使う機器や医師の経験は、病院によって差がある。ある病院では「難しい場所なのでできない」と言われても、別の病院ならできる可能性があると谷木医師は言う。

「たとえば胃や腸に接しているがんを焼く場合、他臓器に悪影響がでることがありますが、人工腹水を入れてから焼灼すると防げるなど、別の提案ができるかもしれません。大きな腫瘍でも、次世代マイクロ波なら肝動脈塞栓術(後述)と併用するなどの提案も可能です」

 肝臓がんは治療の選択肢が多い。手術だけ、ラジオ波焼灼術だけなど、治療法がひとつしか提案されず、納得できない場合にはセカンドオピニオンを検討してもいいだろう。

「その場合、病院選びは重要です。希望する治療があるなら、その治療の症例数の多い病院を選んでセカンドオピニオンを受けるべきでしょう」(池田医師)

≪セカンドオピニオンをとるべきケース≫

ケース
腫瘍が3センチ以上、3個以上だから治療できないと言われた

「肝癌診療ガイドライン」でアブレーション治療が推奨されているのは腫瘍が3センチ以内、3個以下の場合だが、条件によっては可能になることもある。

ケース
「ラジオ波でいきましょう」などと断定され説明がない

その病院の得意な治療法を最優先で提案されている可能性がある。セカンドオピニオンでほかの治療法がないか聞いてみるのもいい。

■ランキングの読み方と病院選び

 アブレーション治療の目安として必要な治療数を問うと、谷木医師、池田医師ともに「年間50例は必要」と答える。

「二次元の画像を見ながら、頭の中で肝臓を立体的にとらえ直したうえで、小さな腫瘍に針を刺すのですから、経験と高い技術が必要です。50例以上なら難しい症例も経験していると考えられます」(池田医師)

 病院の設備にも注目したいと話すのは谷木医師だ。アブレーションは基本的に局所麻酔でおこなう。患部を焼くときに痛みを感じやすいので、鎮静剤と痛み止めを使い、眠った状態で治療できる病院もある。

「ただ、患者さんが眠っていると、肝臓の位置を調整するために息を止めてもらうことができません。そのため患者さんの姿勢を変えて体位を調整できる専用の手術台が必要です。またMRI(磁気共鳴断層撮影)やCT(コンピューター断層撮影)と超音波画像を対比して比較検討できる『フュージョンイメージング』という設備があると、より安全で高いレベルの治療ができるようになります。それは症例数の少ない病院では難しいでしょう」

 転移性肝がんの治療数は、病院によってバラつきがある。池田医師は、転移性にはアブレーション治療をほとんど実施しないと話す。

「転移性の場合、肝臓にある腫瘍だけを焼灼しても治るとは考えにくい。それより薬物療法などで全身の治療をすることを優先させています」

 谷木医師の慶応義塾大学病院では、次世代マイクロ波を導入して以来、徐々に転移性の数が増え始めた。

「転移性の場合、がんの境目があいまいになるため大きめに焼く必要があります。今後はマイクロ波治療が進むことで、転移性の治療に生かされる可能性があるかもしれません」(谷木医師)

 がんが進行すると、手術もアブレーション治療もできない状態になる。その場合に選択されるのが肝動脈塞栓術だ。肝臓内の動脈にカテーテルを注入し、がんに栄養を送る血管をふさぎ、抗がん剤を送りこむ治療で、週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』ではその症例数も掲載している。

「肝臓内の腫瘍の位置を確認し、こまかく枝分かれする血管にカテーテルを入れるには高度な技術を伴います。症例数の多い病院を選ぶことは重要です。手術か、アブレーション治療か、塞栓術かと治療法が選択できるよう、治療数のバランスのいい病院を選ぶといいでしょう」

 そのための参考になるよう手術数も週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』には併記している。参考にしてほしい。(文/神 素子)

≪取材した医師≫
慶応義塾大学病院 消化器内科 谷木信仁 医師
国立がん研究センター東病院 肝胆膵内科科長 池田公史 医師

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』より