「脳動脈瘤は、すぐに治療をするのではなく、経過観察でもよいケースが多い。もし、リスクを勘案したにもかかわらず不必要な治療をしているのであれば、本当の意味で患者ファーストとは言えないでしょう」(村山医師)

「当院では、脳動脈瘤が見つかった人の中で実際に治療をする人は半分もいません。もちろん、治療をしなかった人の状態は、定期的にチェックしています」(瀧澤医師)

 それでは、患者はどのような基準で病院を選べばいいのか? 瀧澤医師は「バランス」「総合力」といったキーワードで解説する。

「まず、一方の治療法に偏ったりせず、両方の治療をおこなっている病院はバランスがとれていると言えます。個々の症例からどちらの治療が最善かを考えている証拠です。もっとも、病院により得意とする治療は異なります。当院ではどちらの方法でも可能な場合には根治性の高い開頭術を選択しますが、血管内治療が望ましい場合は、血管内治療を得意とする他院に紹介状を書くこともあります」

 このため、結果的に数字に偏りが出てしまうということも考えられる。そこで注目に値するのが、未破裂・破裂治療数のバランスだ。

「破裂の治療数が多い病院は、総合力があると言えるでしょう。もちろん周囲にあまり病院がないなどの地域性にも左右されますが、これはくも膜下出血で搬送された患者が多いことを意味していますから、緊急時の対応にも期待できます」(同)

 脳動脈瘤治療における全体的なトレンドとして、低侵襲な脳血管内治療の治療数は年々増加し、それと反比例して開頭術の治療数は減ってきている。毎年おこなっている本誌の調査でもそのことは確認できる。

「しかし、瘤に血液が流入する入り口が広がっている場合や、瘤から重要な血管が分岐している場合など、手術でないと治せないケースは依然として存在します。アメリカでは開頭術に長けている医師はわずか150人程度と言われている一方、日本には開頭術ができる医師が多くいます」(村山医師)

 日本では脳動脈瘤の治療選択の機会が開かれていると考えれば、少しでも疑問があれば聞いてみるのも手だろう。(文/白石 圭)

≪取材した医師≫
東京慈恵会医科大学病院 脳血管内治療部 診療部長 村山雄一 医師
旭川赤十字病院 脳神経外科部長 瀧澤克己 医師

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』より