この理論を、かいつまんで説明すると、「独自の通貨を発行している国の政府は、自国通貨建てでいくら借金しても、通貨を増発すれば良いのだから、デフォルト(財政破綻)に陥ることはない」ということを主張している。

 2020年の米国大統領で、民主党の候補者の一人となっているバーニー・サンダースは、ステファニー・ケルトン教授を経済顧問に迎え、理論武装をしている。「反緊縮」を掲げ、政府が主導して公共事業を行って、仕事を作るべきだと訴えている。

 英国労働党のジェレミー・コービン党首も、「人民の量的緩和」を提案している。イングランド銀行が供給するマネーを国立投資銀行に提供し、ここを通じて、住宅建設などに投資しようと訴える。

 山本も松尾も、こうした海外の左翼の潮流に乗っている。日本政府は、日本円建ての政府債務残高をどれだけ増加させても、必要なお金は、通貨を増発して賄える。だから、もっと政府は借金をして、お金を使うべきだ、と考えている。

 安倍首相は、この理論に明確な同意はしていない。MMTに関する見解を問われると、「危機があれば日本の言わば円が買われるということでありますから、日本の信用は十分にあるということでありますが、同時に、財政再建は進めていきたい」(2019年4月4日、参院決算委員会)と言葉を濁している。

 とはいえ、やっていることの土台は、MMTとほとんど変わりがない。

 7年間、これだけ大規模な財政出動と金融緩和を続けてきたにもかかわらず、当初掲げていた目標は達成できていない。ゆるやかな景気回復は続けているものの、物価上昇率2%にはほど遠く、最大の狙いであったデフレ脱却はできていない。

 2020年には、東京五輪・パラリンピックが開催される。終了後は、五輪に向けたインフラ整備の需要はなくなる。外国人観光客の増加もアタマ打ちになるかもしれない。東京五輪という大イベントをターゲットにして、進められてきた街づくりなどのプロジェクトが一段落すれば、景気が一気に悪化する可能性は否定できない。

次のページ