武漢に向かうチャーター機に乗り込む関係者(右)=2020年1月28日午後8時3分、羽田空港(c)朝日新聞社
武漢に向かうチャーター機に乗り込む関係者(右)=2020年1月28日午後8時3分、羽田空港(c)朝日新聞社

 中国・武漢市で発生した「新型肺炎」が世界的な広がりをみせ、あまりにもさまざまな情報が飛び交うなか、果たしてどれが正しい情報なのか、不安になることはないだろうか? 『世界を知るための哲学的思考実験』(朝日新聞出版)の著者で哲学者の岡本裕一朗氏が、「哲学」を使った思考実験を通して、フェイク・ニュースとは何なのかを考えた。

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 昨年(2019年)末より中国で始まった新型コロナウイルス肺炎が、猛威をふるっている。日本では、当初あまり深刻に受け取られていなかったようだが、国内でも感染者が発症して、雰囲気が一変した。

 テレビでは、一日中このニュースが報じられ、国民の不安感をかき立てている。町では多くの人がマスクをかけ、電車のなかで咳払いでもしようものなら、睨みつけられてしまう。こんな状況では、さまざまなフェイク・ニュースが威力をもつようになるだろう。その一つとして、次のような思考実験を作ってみた。

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【思考実験 ウィルス・ゲート事件が起こる?】

 東アジアのある地域で、新型の感染症が発生した。その病気は、感染力がきわめて強いが、致死率は必ずしも高くはなかった。その病の特徴は、症状がまだ出ていない場合でも伝染することで、そのため本人の自覚がないまま感染が広がることになる。病気の発症地は、経済的に重要な場所なので、日本からも多くの人たちが生活していた。

 そんな折、当初の予想に反して、新型感染症の流行が早まり、アウトブレイクを迎える事態となった。そこで政府は、その都市を封鎖し住民が地域外に行き来することを禁止したのである。その状況に直面して、日本はチャーター便の飛行機を用意して、その地域で生活する日本人を帰国させることにした。

 日本政府は、病気の潜伏期間を考慮したうえで、基本方針として帰国者全員を2週間隔離後、あらためて検査した上で、自宅に帰ってもらうことにした。メディアでもこの方針が大々的に伝えられ、国民もそう信じていた。

 ところが、1週間もたたないうちに、その中の十数名が収容先の施設から「やむを得ない事情で国内の自宅などに戻った」という報道が、ひっそりと伝わってきた。ところが、このニュースはマスメディアでは、あまり大々的に取り上げられず、あたかも報道管制が敷かれているように、事実のみが小さく伝えられたにすぎなかった。

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「ウィルス・ゲート事件」誕生?