──大船渡高校の佐々木朗希投手(現ロッテ)が夏の甲子園予選の岩手大会決勝で投げなかったことを批判した張本勲さんが、逆にネットで大批判されたこともありました。

 野球について議論することは必要。大切なのは、どんな問題でも「どうやったら野球が面白くなるか」ということを目指して話し合うことです。それなのに、偉大な記録を残した選手に対しても「仮想敵」と決めたら集団で批判する。弱い者いじめを楽しむ心理と同じです。

 これが政治的に利用されるようになれば、とんでもないことになるかもしれません。私は元プロ野球選手として、経験者として、「球界の将来をみんなで考えようよ」と言っているだけなのです。

──『人生9回裏の戦い方』でも、今の日本について思うことやがん宣告を受けた後の人生の過ごし方などについて書かれていますね。

 70歳の少し手前で「胃がん」という、ある種の「死の宣告」をされて、現実的に死を覚悟しました。野球にたとえるなら、9回表でリードされたまま投げきって、このまま負け投手になって死んでいくんだなと思っていたんです。それが、今の新しい治療法のおかげで生き延びています。9回裏に近代医学が同点にしてくれたということです。ただ、私のこれからの人生は一瞬で終わるかもしれない延長戦ですが……。

 野球界だけではなくて、社会の中では税制から医療、介護まで日本はいろんな問題を抱えています。なのに、議論が進まない。日本の社会全体が、いつの間にか善悪二元論でしか語らなくなったんでしょうね。真実というのは、白黒はっきりできるものではなくて、グレーの部分にあるんです。今の日本人は白と黒が混ざるのを嫌がり、グレーを認めないのか? そんなことも考えながら、本を書きました。

 私は好きに生きてきて、がんも経験しています。ある種、開き直っています。だから、これからは一日一日をどう過ごすのかを大切にして生きていきたい。今の思いは、せいぜいハーレーに乗って田舎の道を走ることぐらいですが。

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時代は変わっても根っこは同じ