7両連結されている寝台車はタイ国鉄の2等寝台と同じく通路を挟んで2段ベッドが線路方向に並ぶタイプで、JRならばA寝台である。これでJBセントラルまで56リンギ、およそ1700円とは格安だ。

 他にリクライニングシートの座席車が3両と食堂車が1両。寝台車のなかはさほどではないが、座席車は冷房がギンギンで、「これは長く乗ってられないな……」と思わざるを得ない。

■いままでに体験したことない摩訶不思議な列車の揺れに…

「オーッ、シックス、シックスね!」

 私が確保した寝台は6号車の6番(下段)。実は数字の並びがいいからと指定しておいたのだが、車内改札の車掌のこの反応からすると、ひょっとしてマレーシアでは縁起のいい数字なのだろうか。

 列車は家並もまばらな大地をゆっくりと南下して行く。ノロノロとはいかないまでものんびりとした走りっぷりだ。

「路盤が脆弱で速度を上げられないのかも……?」

 そんな想像と呼応するかのように、列車の揺れがはじまった。

「ゆうぅら、ゆうぅら……」

 大きく横波に撫でられるかのような不思議な揺れで、これまでこんな乗り心地の乗り物に乗った記憶はない。だが、そんな揺れこそが、このジャングル路線に相応しいような気がし、揺れに身体を預けていると自然と頬が弛んでくるようであった。

 列車はワカバル、パシルマスとコタバル近郊の駅に停まりながら南下、街を抜けると早くも密林の前兆らしい車窓となったが、それとともに夜の帳が眺望を阻んでゆく。そんななか、名も知れない小駅を通り過ぎたり、ときに停車したりすると、わずかに家あかりや街灯が車窓の闇に浮かび上がる。

「いずれは明るいうちに乗り直さないといけないな」

 と、新たな楽しみに誘われるのだが、こんな夜の車窓もまた格別。飽かずに眺めているうちに、車内のあちらこちらから寝息が聞こえるようになった。

■17時間10分の旅路に大満足!

 ふと目が覚めるとどこか大きな駅に停まっているようであった。近代的なつくりのホームの向かいにはJRの特急を思わせる電車が灯もなく停まっている。

 首をひねって駅名標を探すと、グマスの文字が読み取れた。東海岸線と西海岸線との接続駅である。

 列車は徐々に明るくなってくる大地をゆく。昨夜の不思議な揺れは収まり、速度もだいぶ上がったようだ。

 残念ながらジャングルの車窓は終わっており、長々とアブラヤシのプランテーションが続いたかと思うと、小さな街が現れ、再びアブラヤシの林に囲まれてしまう。

 停車駅ごとに寝台車からは乗客が去ってゆく。終点のJBセントラル到着は11時10分。そんな時間の到着なので、途中で寝台を座席に変えるに違いないと想像していたが、一向にその気配もないまま、長い朝寝の時間が過ぎてゆく。

 やがて、久々……というよりはじめてまとまった街並が現れた。どうやらジョホールバルらしい。

 列車は出発時と同様にゆったりとした足取りで街中を走り、定刻通りに終点のJBセントラル駅に到着。

 隣のホームでは、シンガポールへ向かう国際シャトル列車が乗客を待っていた。(文/植村誠)

【ガイド】
●2020年2月現在のダイヤは以下のとおり。
27列車:トゥンパッ18時50分発→翌12時06分JBセントラル着
26列車:JBセントラル19時15分発→翌12時32分トゥンパッ着

●乗車券の予約・購入はKTM公式WEBサイトで可能(要クレジットカード)。決済後に発行されるE-Ticketをプリントアウトのうえ持参すれば、そのまま乗車券として利用できます。
URL https://eticket.ktmb.com.my/eticket/

●なお、文中で紹介したとおり、スンガイコーロクを含むタイ深南部には日本国外務省より危険渡航情報が発出されています(2020年2月12日現在)。

【著者プロフィール】
植村 誠(うえむら・まこと)/国内外を問わず、鉄道をはじめのりものを楽しむ旅をテーマに取材・執筆中。近年は東南アジアを重点的に散策している。主な著書に『ワンテーマ指さし会話 韓国×鉄道』(情報センター出版局)、『ボートで東京湾を遊びつくす!』(情報センター出版局・共著)、『絶対この季節に乗りたい鉄道の旅』(東京書籍・共著)など。