――結局、患者と医師がすれ違わないためには何が必要でしょうか。

大塚:結局、そこに至るまでの関係性が一番大事なんですよね。いかに本音で語り合えているか。そうでなければ、たとえば積極的な治療から緩和ケアに移行するときに、患者は医師のことを信じてくれません。「そんなことを言うけど、ほかに手はあるはずだ。この病院をやめてほかに当たろう」と。民間療法に走って、多額のお金を使ってしまったりする。だから治療していくなかでコミュニケーションを深めていくことで、患者さんに「先生がそう言うなら」と言ってもらえるようにしたいですね。

中山:私は患者の側にいたことがあります。19歳で肝臓がんにかかった友人の女性で、その時点でステージ4でした。手術のあと再発してしまい、標準治療がすぐに終わってしまった。そこから3年間、臨床試験も含めていろいろなことを試していました。周りで支える人たちも同じ気持ちで、「死ぬ寸前まで治すことをあきらめたくない」と。だから主治医との関係がどうあれ、ほかの治療を検討するのは、私は悪くないと思っています。ただ、いまの日本には効果が期待できない代替医療が多いというだけで。

大塚:標準治療の弱いところは、外側を埋められないことですよね。エビデンスが中途半端なものって標準治療からするとなんとも言えないのですが、しかしそこが一番、標準治療をおこなってきた患者さんが知りたいところでもあると思うんです。たとえばアトピーは、標準治療を完ぺきにやっているのに症状が残る、まだよくならないという人もいます。その人たちがやりたいことを否定するというのは私は違うと思うんです。

 私は、標準治療の外側にあることも、医学でちゃんとソムリエをしてあげたい。日本緩和医療学会は「がん補完代替医療ガイドライン」を出していますよね。代替医療のなかにも、少ないエビデンスではありますが「やってもいいかもしれない」というものもあれば、「やらないほうがいいかもしれない」というものもある。私も医学の立場から、濃淡をつけてあげることはできるはずだと思っています。そういうことで、悪徳で高額すぎる民間療法から患者さんを守ることはできるのではないかと思うんです。

中山:私が言いたかったのはまさにそういうことで、きれいに言語化していただきました。だから私の外来にも引き続き来てほしいんです。ほかのところに行ってもいいよ、ただほかで得た情報を持ってきてもらえれば、おすすめしたり、「やめときましょう」と言ったりしますよ、と。そんなふうにして関係性を継続させるようにしていきたいですね。

※週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2020」から