大塚:私も本音を言ってほしいのですが、最近ぐらつきがあります。メラノーマは生命予後がとても悪い疾患で、治療方針を突き詰めると生き方の選択になるんです。これまでどうやって生きてきたのか、家族と過ごす時間が1秒でも長いほうがいいのか、苦しくない・痛くないことが大事なのか……それを聞いて「こんなものがあります」と提供する。医者がすべきことは、ソムリエに近い。

 ただ医療現場においては、その提供というのはネガティブなものであることが多いんです。本当に深く付き合っていかないと、医師も患者さんも選択できない。しかし、医者と患者さんの関係でそこまで深く付き合うことが正しいのか……自分の家族でも「どう生きたいか・死にたいか」の話ってしないですよね。家族でもしないようなことを医師と話せるのだろうか、と絶えず悩んでいます。

中山:お話を伺っていて思ったのですが、私もかなり同じスタンスです。ただワインリストを渡しておしまいではなく、プロが好みを聞いて一番あうものを提供する。ソムリエというのはいちばんしっくりくる例えです。患者・家族と話すときも、基本的には私ひとりで進めないようにしていて、例えば抗がん剤治療なら必ず薬剤師さんにも説明してもらっています。

大塚:なるほど。

中山:大腸がんの手術後に再発をおさえる薬は3種類から選ぶことが多いです。効果はどれも似ているのですが、副作用が違います。手の痺(しび)れ、吐き気、脱毛のどれが嫌なのか。薬剤師の説明と、看護師のオリエンテーションを聞いてもらって、1週間考えてもらってから患者さんともう一度話し、一緒に薬を決めています。大腸がんは時間的余裕がかなりあるんですよね。一方でメラノーマは時間がない。

大塚:患者さんによってはうかうかしてられないですね。その代わり希少がんということもあり、一人当たりに時間を割くことができます。メラノーマの専門外来に限って言うと患者さんが大挙するということはなくて、1日数人ですから、丁寧に説明できる。

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死を考える段階にない若い人たちへの伝え方は難しく…