いくら親でも子供のすべてを受け入れられるわけではないこと、世の中には色々な考え、価値観を持っている人がいること、“同性愛者”を受け入れがたい人がまだたくさんいること、そういったことは理解しているつもりです。

 ただ、もう一度、母にきちんと同性愛者であることや、男性と結婚し家庭を持つことはできないことを伝えた方がいいのでしょうか。

 私は母と仲良くしたいだけなのです。買い物に行ったり旅行をしたり、親孝行もしたいのです。

 ただそれだけなのですが、やはり難しいのでしょうか。

【鴻上さんの答え】
 オードリーさん。つらいですね。大切な母親に自分を認めてもらえないことは、本当につらく悲しいと思います。

 僕は2015年に『ベター・ハーフ』という演劇作品を創りました。登場人物が4人だけの恋愛物語でした。その一人に、トランスジェンダーの女性を選びました。男の身体で生まれて、自分自身を女性だと認識している人です。

 故郷でいじめられ、親にも受け入れられず、独り、都会に出てきて、ホテルのラウンジでピアノを弾いているという設定でした。

 その役を、本当にトランスジェンダーの中村中さんに演じてもらいました。もともと、NHKの『紅白歌合戦』にも出場した経験のあるシンガーソングライター、中村中さんと出会ったことが、『ベター・ハーフ』という作品を書いた動機の重要なひとつでした。

 芝居には、僕の知り合いのトランスジェンダーの女性も見に来ました。見終わった後、泣きながら僕に微笑みました。芝居は、幸いにも好評で、2年後に再演が決まりました。

 再演の時、その知り合いの女性は、御両親を連れて見に来ました。開演前にロビーで僕に御両親を紹介しながら、「この芝居を見てもらったら、話が早いと思ったの。いろんなことを分かってもらえると思って」と少し恥ずかしそうに彼女は言いました。御両親は、彼女の横でぎこちなく黙っていました。

 終演後、ロビーで会った彼女の御両親は、少し微笑みながら、僕に「ありがとうございました」と仰いました。御両親とも、目には泣いた跡がありました。

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「あなたを理解したい」という願い