日本を代表する広告クリエーターの一人であるTBWA HAKUHODOのチーフクリエイティブオフィサー・佐藤カズーさん。国内外の数多くの受賞歴の他、マーケティング担当者から圧倒的な支持を誇っている。そんなカズーさんと、マーケティングのスペシャリストである足立光さんの対談を、足立さんの著書『世界的優良企業の実例に学ぶ「あなたの知らない」マーケティング大原則』から紹介。広告のトップクリエーターだからわかる、クライアントとクリエイティブの理想的な関係とは?

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足立:世の中で話題になるコミュニケーション、つまり、いい広告というのはどういうものでしょうか。最近では、女優・のんが出演して話題になったユニクロの「カーブパンツ」のテレビCMを手がけたカズーさんに、ぜひお聞きしたいのですが。

カズー:僕には2つ「矜持」があって。ひとつは、必ずビジネスのゴールを達成すること。もうひとつは、その広告に触れた人の人生を1ミリでも前に進めること。自分がクリエイティブを提案するときは、その2つをとても大事にしています。なので、それができているのがいい広告ということでしょうね。自分の中での指標はこの2つです。絶対に誰かを不幸にするものはやりたくない。たとえば、誰かを中傷することで「おもしろい」と思わせようとしているものは、プロの仕事じゃないと思います。極論すると、その広告を見て、「死のうと思っていたけど、こんなおもしろいものがあるなら生きていよう」と思ってもらえるような、そういう力が広告にはあると思っています。

足立:ユニクロのCMで言えば、たしかに女性の背中を押すようなメッセージが強いですよね。そんなポジティブな広告を生み出すには、クライアント側はどうすればいいですか? それができるクライアント、できないクライアント、いろいろ見てきたと思います。

カズー:相性と言えばそれまでですが、世の中に対する思いがクライアント側とクリエイティブ側で一致していないとダメだと思っています。企業の創業者って、物を売るだけじゃなくて、これをみんなに届けて社会をよくしたいというような大きなビジョンを持っていますよね。そんな思いを自分も持っているCMOの方に会うと、やはり伝わってくるのでうまくいきます。

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