正尚さん(仮名、30代後半、会社経営)は「妻といるとホッとするんです」とおっしゃる1人です。しかし、一方で、

「最近妻の態度がぎすぎすしていて……。理由は分析できているので、最短で妻が気持ちを変えるためのアドバイスが欲しいんです」

ともおっしゃいます。詰まるところ、妻と「時間を共にする」ことを望んでいるが、カウンセリングでは面倒なことを省いて、「最短・最小労力で結果を得られるアドバイスが欲しい」と希望されているわけです。

 私が倍速で話せたら、カウンセリングの回数を半分にでき、喜んでいただけるかもしれません。でも本当にそうなるのでしょうか。今回は、カウンセラーとしてご夫婦の話を聞きながら、何を考えているのか、少し裏側をご紹介したいと思います。

 妻の美弥子さん(仮名、30代半ば、専業主婦)にもお話をお伺いしてみます。

「正尚さんは、こうおっしゃっていますが、どうお感じになりますか?」

 美弥子さんは、しばらく考えてから

「なんでかわかりませんけど、最近、夫に優しくできないんです。ぎすぎすした対応をしているのはわかっているんですが……」

とおっしゃるので、重ねて

「正尚さんは、理由は分析できているとおっしゃっていますが?」

と聞いてみると、

「はい。夫にいつもいわれるんですが、私の親の育て方が悪かったので、私の性格が歪んでしまって……。でもそういわれてもどうしたらいいかわからなくて……」

 ちょっと言いよどんだところに、正尚さんが、美弥子さんの顔色を見ながら割り込みます。

「妻の両親は共働きで、仕事に忙しかったうえに、その後離婚してしまったぐらいで夫婦仲も決して良くなかったので、温かい家庭っていうものがどういうものなのかを分かっていないんです」

と言います。

 私はそのやり取りを聞きながら、こんなことを考えていました。

・仮に育ちの問題だとしたら、「最近」優しくできない、というのとは矛盾するな~
・正尚さんがいう「ぎすぎす」というのは実際にはどういうことなのかな
・美弥子さんがいう「優しくする」というのはどういうことなのかな
・でも、親のせいで性格が歪んだと言われちゃったら美弥子さんは辛いだろうな~
・正尚さんを駆り立てている感覚はどんなものなのかな
・正尚さんも美弥子さんも美弥子さんに優しくしていないので、そりゃあ美弥子さんは正尚さんに優しくできないよな……etc.

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「妻が笑顔じゃない」