荷棚は停車駅に近づくと付近の照明を明るくして、荷棚上に意識を向けさせることで忘れ物を防ぐようにコントロールされている。この照明コントロールによりN700Aの荷棚にあった樹脂製小窓を廃止することができ、同時に小窓を作る工程も省略できるメリットも生じた。

■足が安定する座席構造と電源コンセント

 座席もこれまでのものと比べて一工夫されている。N700Aなどで使用されてきた座布団はウレタン製で、今一つ硬い印象なので金属バネを併用していた。しかし、N700Sでは金属バネの代わりに、ソファーなどで使用されている布バネ(ウェービングテープ)を使用している。不特定多数の人が利用する新幹線車両のような座席には高い耐久性が求められるため、過去の実際の座席ダメージを研究、それによって得られたデータを元に定置試験を繰り返し、鉄道車両の使用にも耐えうる布バネを開発した。

 グリーン車のリクライニング機構は、従来の座席ではリクライニング回転の中心が座った人の大腿骨付近にあり、身長差によっては踵(かかと)が浮いてしまうことがあった。N700Sではリクライニングと共に座面が最大6cm沈み込む構造として、リクライニング回転中心を踵付近にしている。こうすることで座り心地が良く、足の位置が変わらないため、シートピッチを変更することなく足下の空間を15%拡大することができた。読書灯には光源にLEDを使用しているが、柔らかい色調の電球色が採用され、レンズを四角くすることで、本や新聞に合わせた四角い光が照射されるようになっている。

 普通車のリクライニング座席は従来背もたれの角度が変わるだけだったが、N700Sは座面が3cm沈み込む構造となり、N700Aのグリーン車の座席に近い構造となった。座面を動かすための動力は従来はエアシリンダを使用していたが、ガスダンパを使用することで空気配管が不要になり、大幅な軽量化と保守の省力化が実現している。また、普通車でもすべての座席にコンセントが設置されている。3人掛けの座席の中央、B列においてもコンセントが使用できるように、肘掛けの先端部分にコンセントが設けられている。これはリクライニングさせても、座席を回転させても問題ないように、配線の引き回しの工夫に苦労が必要だったそうだ。(文/高橋政士)