「親族も同席したい」そう告げると、「ご本人にしか聞き取らないので、ご家族の意見は伺いませんよ」との返答。不信感が増した。

 調査の当日、一人で来た社員が聞き取りを始めた。

社員「契約の意向はありましたか?」
男性「覚えていない」
社員「どのような勧誘を受けました?」
男性「よく、覚えていない」

 所定の質問事項を順に読み上げる。認知症の男性から確かな回答はほとんどないが、黙々と書き込む社員。「茶番」のようなやりとりだった。一つの契約を聞き終えると、残りの複数の契約は尋ねず、同じ内容の答えをその場で書類に写した。

「高齢者の方は郵便局のファン。この方々が生きている間は郵便局を助けてくれる」。日本郵便の横山邦男社長の言葉だ。しかし、現場ではその根底が揺らいでいた。

 長女の悔しさは消えない。

「郵便局の人でなかったら、父は家にあげなかった。信頼を裏切られ、『食いもの』にされてしまった」

(取材・朝日新聞経済部)