いまだ収束の見えない「かんぽ 不適切販売」。かんぽ生命と日本郵便には一部業務停止命令が出され、グループ3社首脳は退陣。日本郵政の新社長には元総務相の増田寛也氏が就任し調査を拡大する方針を示したが、不正はまだ埋もれているとされる。なぜこのような不適切販売が広まったのか。朝日新書『かんぽ崩壊』(朝日新聞経済部)では、記者が現場で行われていた驚愕の手口を紹介している。同書より一部抜粋する。

*  *  *

■年金月18万円なのに、保険料は40万円近く

「かんぽ」「かんぽ」「かんぽ」「アフラック」「アフラック」……。

 70代後半の男性の通帳には、保険料の支払い記録がずらっと並ぶ。多いときは1カ月の支払いが10本以上。年金が月18万円なのに、保険料は40万円近くにのぼっていた。

 2018年冬、一人暮らしの男性の自宅を長女が訪れた際、新聞やチラシに埋もれた通知を見つけた。ゆうちょ銀行の明細だった。

「お父さん、これ何?」

 異常な数の保険を不思議に思ったが、父は「郵便局がちゃんとやってくれているから大丈夫だ」。そう言われ、それ以上は聞けなかった。

■認知症で何口加入しているかもわからない

 19年6月下旬、不適切販売が報道されると、長女は「やはり」と嫌な予感がした。

「保険証券と通帳を全部見せて」

 そう父に迫ると、自分が何口加入しているかさえも知らない様子。その後、父は数年前から認知症だったと診断された。

 郵便局へ問い合わせ、説明に来た局員にただしたが、「お父様のご希望でご案内しました」の一点張り。直近に入った保険はいずれも契約から3年目で解約され、不審な点があった。

 契約から2年以内の解約だと、局員は営業手当を返すルールだが、それ以降は免れられる。手当めあての疑いが消えなかった。

 経緯を尋ねると、「支払いが難しいと言われた」と局員は説明。ただ、直後に同じ局でアフラックのがん保険に入っていた。

■茶番のような聞き取り調査

 かんぽの社員から後日、調査の日程調整の電話が長女にあった。

次のページ
「親族も同席したい」と告げると…