2000年代のケータイ小説は性的・暴力的にわかりやすい“過激さ”が求められたが、2010年代以降はそういう方向の出来事の過激さは読者に求められていない。

 1974年から約6年おきに実施されている日本性教育協会「青少年の性行動全国調査」を見ても、第1回調査以来、中学生~大学生まで性別を問わずデート、キス、性交経験率は総じて上昇傾向にあったが、2011年調査ではついに反転し、最新2017年調査でもおおむね下落傾向にある。

 経験率だけでなく性的行動への関心自体が減退しているのだ。そしてそれに合わせるようにして10代向け恋愛小説や少女マンガでは性描写のソフト化・忌避が進んだ。

 ただその代わり、「号泣」や「溺愛」などの“感情の高ぶり”が読む前からわかりやすく伝わることがかつて以上に求められるようになった。

 こうして近年のケータイ小説ではハッピーエンドの「溺愛」ものが一大ジャンルを築いている。

■溺愛系SNSアカウントの先駆「楠本Family」

「妻が綺麗過ぎる。」に先行する溺愛系SNSアカウントといえば「楠本Family」の存在が外せない。

 楠本Familyは動画配信・共有サービスMixChannel上で「りほだいカップル」として有名になり、こちらは夫側ではなく妻側からの記述だが、ふたりの馴れ初めから結婚までを綴った『ずっと一緒にいられますように。』という本(KADOKAWA、2017年刊)がやはりスマッシュヒットとなり、小説化、マンガ化もされた。

 SNS上には生まれては消えていくカレカノ共有アカウントがあるが、その最大の成功例だろう。

 同書は、母子家庭で育った里歩が17歳で彼(大悟)と出会い、18歳で妊娠、そして入籍。19歳で出産、20歳で結婚式、さらには311を体験という、時系列だけ見るとジェットコースターストーリーに思えることが、ノロケと「パズドラで13コンボできた!」と言って喜んだりする(今では時代を感じる)ほっこりエピソードによってあたたかい気持ちになる一冊になっている。

 昔だったらヤンキーマンガやTVドラマの題材になりそうなエピソードが頻出するが、ドキドキさせるというより、全体を「完全に大悟から愛されている」という安心感が貫いているのが2010年代的だった。

 地元で生まれて地元で育って地元で恋愛、結婚、出産という地元志向が強まる時代の空気とマッチした溺愛ものとして、全国的に人気になったのも頷ける。

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ほっこりした触れ合いがほしい