5日から7日の日数での渡航が多いといわれる日本人の旅行者下痢症は、私のケースのように現地で下痢に襲われることもあれば、帰国してから下痢に襲われるケースも少なくありません。

 実際、インフルエンザの流行は正月休みなど関係がないため、年末年始を問わず、外来には「インフルエンザに罹患してしまったかもしれない」と多くの患者さんが受診されていますが、そんな中で、海外で年末年始を過ごし、滞在中ないしは帰国直前や帰国直後に下痢になってしまったという患者さんを新年の外来で何人も見かけています。

 本来は、渡航先や現地での食事内容、発症のタイミングなどから原因を同定し、適切な抗菌薬の投与を行うことが治療になります。しかしながら、原因が特定されるまでには日数を要します。そのため、スポーツドリンクなどの水分摂取による早期の脱水予防と、抗菌薬の1つであるニューキノロンの内服が現実的な対応策となります。

 ちなみに、粉末のスティック状で売られているスポーツドリンクを日本から持参しておけば、現地で水を購入しさえすれば、スポーツドリンクは簡単に作ることが可能です。

 旅行者下痢症はほとんどの場合、1週間以内に治りますが、慢性的に続いてしまっている場合は、未治療ないしは不十分な治療が原因である可能性があります。その場合は、早めに医療機関に相談することが大切です。なお、症状がひどい場合も、現地の病院を受診する必要があります。

 冬が終われば、ゴールデンウィーク、東京五輪開会式の連休、そして夏休みがやってきます。東南アジアや中南米、アフリカといった国々への渡航を考えている方は、必要なトラベルワクチン接種と共に、旅行者下痢症への対策について、ぜひ事前に医師に相談してみてくださいね。

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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