ライドタイプのお化け屋敷「スリラーカー」。お化けも怖いが、ガタガタ壊れそうなのも怖い(撮影/福光恵)
ライドタイプのお化け屋敷「スリラーカー」。お化けも怖いが、ガタガタ壊れそうなのも怖い(撮影/福光恵)
展覧会を鑑賞後、列の最後尾に行ってみると、40分待ちの看板が!(撮影/福光恵)
展覧会を鑑賞後、列の最後尾に行ってみると、40分待ちの看板が!(撮影/福光恵)
ゲットした切符を、発車を待つ初電をバックに記念撮影(撮影/福光恵)
ゲットした切符を、発車を待つ初電をバックに記念撮影(撮影/福光恵)

 1月は行列のトップシーズン。行列の代名詞ともいえる初詣の行列が各地の神社で伸びるほか、福袋、初売りなどお得系の行列も激増する。このひと月だけで全国の行列の長さは、なんと地球100周分に相当……するかどうかは知らないが、とにかくやたらと行列を見かける季節となっている。

そんな1月がスタートした正月の三が日、「帰省ブルーじゃないからね」と断って夫の実家を抜け出し、まさかの変わり種行列に並びに行ってみた。まず元旦は、とびきりのレアもの。遊園地のお化け屋敷の行列からスタートだ。年末年始はいつも以上増える観光客に、浅草寺の参拝客も加わって大変な混雑になる……そんなウワサを聞きつけて、お化け屋敷の殿堂「浅草花やしき」へGO!

■たった1人のお化け屋敷

 こちら1853年開園の、日本最古の遊園地のひとつとして知られる。2005年にはすぐそばに、つくばエクスプレスの浅草駅が開業。アクセスもよくなって、レトロ遊園地として人気も復活している。なかでもお化け屋敷系アトラクションは、看板のひとつ。乗り物に乗って楽しむ「スリラーカー」、ヘッドフォンで楽しむ音フェチ系の「ゴーストの館」と、歩いて楽しむ「お化け屋敷」の3種がある充実ぶりだ。

 元旦の昼過ぎの場内は、浅草寺帰りの人や観光客で大賑わい。日本最古の絶叫ライド「ローラーコースター」は、40分待ちの行列もできている。家族連れや2020年初デートのカップル、アジア系の外国人や、元旦から会社のレクリエーションで来ているらしいグループなんかもいた。

 期待に胸を膨らませて3つのお化け系アトラクションを回ってみると……あれれ。どこも行列は多くて2~3人。なかでも、洋館の椅子に座ってヘッドフォンで音フェチを楽しむ「ゴーストの館」の観客は、なんと私1人しかいないんですけど。

 アトラクションとわかっていても、たった1人、真っ暗の部屋で女性の悲鳴や子供の笑い声などを聞くのはさすがに怖い。街のあちこちで優雅な琴の調べが流れる元旦らしからぬ背中のゾクゾクを、無駄にたっぷり味わってしまった。

「行列ですか? さすがに元旦は、できないと思いますよ。でも年末はすごかった。30分以上の待ちもあったくらいです」

 お化け屋敷のお兄さんがおしえてくれた。元旦のこの日、浅草寺の参拝の行列は2~3時間待ちがザラ。花やしきのある浅草国際通り周辺の、ほかの変わり種としては、かき氷が人気の鯛焼き店「浅草浪花屋浅草」や、24時間年中無休の250円の弁当屋「デリカぱくぱく」などに行列ができていた。

<お化け屋敷3種~ゲットしたもの:ゾクゾク 行列時間:合計10分 費用:入場料1000円+のりもの料金各300円>

■ゴッホ展は200人以上の行列
                      
 続く1月2日は「上野の森美術館」の「ゴッホ展」の行列へ。耳を切り落とすなど、壮絶な人生でも知られるオランダの巨匠、ゴッホの展覧会。正直、正月らしさはゼロだ。ただし会期は1月13日まで。東京観光の観光客の参戦も予想されたため、年明け初オープンのこの日、9時少し前に美術館に到着した。

 さすが、とくに日本では絶大な人気を誇るゴッホ先生。オープンまでまだ30分以上もあるというのに、チケットを持っている人の入場の行列が、すでに長い。数えてみると、この時点の目算でだいたい100人前後。チケットを持っていない私がチケット購入の列に並んでから入場の列に並ぶ頃には、行列は200人以上に伸びていた。

「今日くらいはすいていると思って、帰る前に寄ったのに、もうこんなに並んでるなんて……。帰りの新幹線に間に合うかしら」

 年末年始は家族で東京で過ごしたという、栃木県の60代の女性も予想がはずれて悔しそう。かと思えば、

「お父さんがなかなか支度をしないから、こんな時間になっちゃったんじゃない!」

 と、口喧嘩を始める高齢のご夫婦もいる。いや美術展で開館30分前の到着は、普段なら相当早いほう。しかもまだ正月2日だし。怒らないであげてー。

 その後、行列の前後の知らない人と、「上野の美術展でこんな行列に並んだ自慢大会」がスタート。

「若冲なんて、こんなもんじゃないですよ。ほんとにあれはすごかった」

「それよりモナ・リザじゃないかしら? やだ、あれってもう40年以上前よね。キャハハ」

 はい、私もモナ・リザ、行きました……などと小さい声で言ってるうちに、開館時間に。ここからはあっという間。15分くらい並んだだけで、暖かい館内の人となった。

 この展覧会は、「糸杉」「麦畑」などゴッホの有名な油彩のほか、ゴッホの作品に影響を与えたとされるモネ、セザンヌなど印象派の作品も紹介。小一時間並んでも、余りある見応えだ。

 ほかに上野では、国立博物館で無料で公開されていた「特別公開『高御座と御帳台』」が2日午前中で80分待ちという、もっとも長い行列だったと思う。

<ゴッホ展~ゲットしたもの:目の保養 行列時間:45分(開館待ちを含む) 費用:入場料1800円> 

■銀座線の新駅で切符をゲット

 続く3日は、朝3時に起床。タクシーで銀座線の渋谷駅へ。なぜタクシーかというと、この日新駅舎が開業するのが、5時01分の銀座線の始発からだからだ。そう。ラストのミッションは、6日間の工事期間を経て、3日開業する、銀座線渋谷駅の行列チェック。駅に一番のりしたい人などが集まると踏んで、4時すぎには明治通りにできた新駅舎の改札口に到着した。

 「銀座線渋谷駅」のサインもまぶしい新駅舎では、すでにメディアの人たちが改札前でブリーフィング中。私も一応「メディアの人たち」なので、あっちに行って歴史的瞬間を取材したいが、今回のネタは行列だし。駅舎の外に立ち、この記念すべきオープンにやってくる一般の人たちを待つことにした。

 4時にはまばらだった一般客も、10分15分と過ぎるうちに十数人に。やっぱり慣れた感じの鉄道ファンらしき人が多い。

「1時過ぎまで池袋で飲んでいて、そのあとここまで歩いてきました。約1ヶ月前には相鉄線の新駅開業にも行きましたが、そのときは100人くらいの鉄道ファンが詰めかけた。それに比べると人は少ないのに、メディアの数はこっちのほうが断然多いですねえ」

 そう話すのは、改札前でMacBook Proを広げていた伊藤高弘さんだ。この方、YouTuberではなくて、Train ATSという鉄道系のゲームを作るゲームクリエーター。自身のサイトで、銀座線渋谷駅の開業の様子を紹介しようと、気温1.4度の極寒の街を歩いてやってきたという。

 聞けば、たまにある新駅開業の行列は、大きく分けて2種類。ひとつは真っさらの駅を出発する一番電車を写真に収めるための行列。もうひとつは、新しい駅で発行される若い番号の切符を求めるための行列らしい。

 そんなこんなを教えてもらっているうちに、チェーンが外され、切符売り場や自動改札が始動。門外漢なので、切符のほうの行列に並ぶことにした。といっても、写真班のほうが人気のようで、こちらの行列は6~7人くらい。自動券売機に並んで、2020年1月3日の渋谷発の切符、「(時間)04:42 (通し番号)0005」をゲットした。よくわかんないけど、や、やったー。

 列のうしろの人におしえてもらったところ、ここで改札口を通しても、出る駅で駅員さんに言うと、ハンコを押した切符がもらえるそうだ。

「価値というより、記念ですよ、記念」

 そうして新ピンの駅に上っていくと、レトロ車両の黄色い銀座線が待っていた。見慣れた車両だが、若い奥さんをもらったみたいで、気のせいか若々しく見える。ただしよく見ると新駅の、それも初電の車内のシートで、早くも横になって寝ている酔っ払いらしき人の姿も……。何だ、ほっとした。いつもの渋谷駅じゃん。

 5時1分、拍手とともに新駅舎の初電を見送って、ミッション完了。行列の長短はともかく、正月感ゼロのまさかの場所にも、必ずや人は集まっていた。このひと月だけで全国の行列の長さは、なんと地球100周分……じゃなくて、なんと地球1000周分(予想値)に訂正します。

<銀座線渋谷駅新駅舎開業~ゲットしたもの:0005番の切符 行列時間:60分(開館待ちを含む) 費用:タクシー代3000円 初乗り切符170円>

(文・福光恵)