外的要因を考えても、山田の巨人入りがファンの興味を削ぐことに繋がる可能性がある。歴史の流れを振り返ると、巨人がV9時代(1965~73年)に果たした役割と功績は大きいが、巨人戦の地上波放送がなくなり、野球観戦の方法が多様化するとともに、ファンの数が分散、均一化されてきた現代では、かつては成立した「巨人一強=ファン数増加=野球界の発展」の方程式は成立しない。令和の時代においては、消化試合のない「大混戦」こそが、ペナントレースを盛り上げ、ファンの興味をつなぐ大きな要素になると言える。

 パ・リーグでは近年、ソフトバンクが巨大戦力を築いているが、大本命が開幕から独走して優勝するシーズンが続くことはリーグ全体の発展と興行面を考えると好ましくない。現に、ソフトバンクが一度も負けることなく圧勝した昨年のCSファイナルステージ、そして日本シリーズも、盛り上がりという面では物足りなさを感じたことは否めなかった。

 勝てば官軍であり、勝利こそが巨人ファンが追い求めるものであるのかも知れないが、他球団のスター選手を強奪して作り上げるチームよりも、生え抜き選手が並んだチームの方が、やはりファンから愛される。選手の立場から見ても、FAで巨人入りした面々の中でどれだけの選手が最後まで幸せだったのか。かつては「元・巨人」の肩書が何よりも幅を利かせた時代もあったが、今は違う。選手個人の権利や希望は大事にすべきだが、メジャーに倣って活発な移籍を推し進めるには球団数が少ない。普段は対戦しない他地区・他リーグの球団への移籍ならいいが、同地区・同リーグのライバル球団への移籍は、やはり反感を買う。

 噂通り、「巨人・山田」は誕生するのか。巨人移籍よりもメジャー挑戦を求める声も多いが、そうなるとNPBからまた一人、スター選手がいなくなることになる。すべては山田個人の選択に委ねられ、その決断が尊重されるべきであるが、日本球界全体を考えた時に「何が最も正解か」については、改めて議論してみるべき案件だろう。