つまり、軽度認知障害と認知症の大きな違いは「毎日の活動において認知機能低下が自立を阻害するか・しないか」。要するに、日常生活においてあきらかな支障が出てしまうのが認知症なのです。

 毎日、何げなく作っている料理には手順があります。

 料理の際にその手順が分からなくなったり、調味料を入れ忘れたりする。また、友人との約束を忘れたり、料金の支払いを忘れたりする。これが「うっかりしていた」で済めばいいのですが、記憶障害によって生活に支障が出始めると、買い物に行って同じものばかりを買う、食事をしたのに食べたことを忘れる、味噌汁を温めていたことを忘れて鍋を焦がすことが多くなる。このような状態が続くと認知症と診断されます。

■世界でも多いのは、アルツハイマー型認知症

 代表的な認知症には4種類あり、脳内での障害の発生部位が違います。認知症全体の半分以上を占めるのが
(1)「アルツハイマー型認知症」です。脳の中でも記憶をつかさどる海馬の萎縮から始まり、徐々に脳全体が萎縮していきます。
(2)「レビー小体型認知症」は、視覚中枢がある後頭葉が萎縮したり活動が低下したりします。
(3)脳梗塞や脳出血により脳の血流が障害されて起こるのが「血管性認知症」です。
(4)理性や意欲をつかさどる前頭葉や側頭葉が萎縮して起こるのが「前頭側頭型認知症」です。

 もし「認知症かもしれない」と思ったら、専門医の診断を受けるようにしてください。各都道府県には「認知症疾患医療センター」として認定された医療機関があります。認知症の診断や治療に関して中核となる役割を担い、専門医も常駐しています。また、認知症の専門医資格は日本認知症学会や日本老年精神医学会が認定しており、各ホームページでも検索できます。

 アルツハイマー型認知症の原因のひとつは、「脳内にアミロイドβが蓄積されるから」ということが知られています。しかし、なぜアミロイドβが蓄積するかはいまだに解明されていません。

 それでも将来認知症になるリスクというのは,今から気を付けて対処すれば,大きく減らすことがでる,つまり多くの認知症は予防が可能なのです。明日の第2話「認知症の予防と治療」で詳しくお話ししましょう。(構成/長谷川拓美)

〇馬場 元/東京都出身。1994年順天堂大学医学部卒業。2000年ケンブリッジ大学留学、07年順天堂大学院医学研究科精神・行動科学准教授、11年順天堂大学順天堂越谷病院副診療部長、18年教授。日本精神神経学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医。