医療や介護などのまとまった出費については備えがあり、定年後の生活費は年金だけでどうにかなるという人も、できれば万全を期す体制で老後を迎えたい
医療や介護などのまとまった出費については備えがあり、定年後の生活費は年金だけでどうにかなるという人も、できれば万全を期す体制で老後を迎えたい

「老後の資金が2000万円も足りない」と指摘し、大騒動を招いた報告書。現在発売中の週刊朝日MOOK『定年後のお金と暮らし2020』では、金融庁の「幻の」報告書を徹底検証しました。「老後のためにも退職金で投資をしなくては」と焦るあなた。金融機関からの甘い言葉にご用心。

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「気をつけたいのは、金融機関からの甘言です」と話すのは、経済コラムニストの大江英樹さんです。

 金融機関は退職金の支給が近づいた顧客に対し、あの手この手で運用商品のセールスを展開してきました。

 ですが、その多くは元本割れのリスクが高い商品で、顧客が商品性をきちんと理解しないまま契約を結ぶケースが珍しくありませんでした。しかも、「2000万円問題」で多くの国民が焦りを感じているので、たやすく手を出してしまう人が増えていくとの見方があります。

「少なくとも、投資信託のように元本割れのリスクがある金融商品を今まで一度も利用してこなかった人は、誘いに乗って購入しないほうがいいでしょう。『退職金で投資デビュー』は、最も失敗するパターンです」(同)

 勧誘される側の私たちも、この現実を肝に銘じておいたほうがいいでしょう。今まで投資経験がなかった人がデビュー戦でいきなり大勝できるほど、世の中は甘くないのです。

 一方で、大江さんによれば、件(くだん)の報告書は注目に値する重要な指摘を行っていました。高齢化に伴い、金融取引に対する認知・判断能力が低下する人が増えることを懸念していた点です。

「『金融機関は顧客本位の営業に努めるべき』との記述があります。これからどんどん増えていくシニアに対し、不適切な営業活動を自粛せよと戒めているのです。高齢者がどんどん増えていけば、認知症患者の数も拡大していくのは避けがたいことでしょう。そうなると、財産の管理について自分自身で判断を下せない人も増えていくわけです。実際にそのような状況に陥った後では成年後見人の選任などといった手続きが必要となってきますし、『家族信託』などのスキームを利用してあらかじめ備えておくのが無難でしょう」(同)

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大西洋平

大西洋平

出版社勤務などを経て1995年に独立し、フリーのジャーナリストとして「AERA」「週刊ダイヤモンド」、「プレジデント」、などの一般雑誌で執筆中。識者・著名人や上場企業トップのインタビューも多数手掛け、金融・経済からエレクトロニクス、メカトロニクス、IT、エンタメ、再生可能エネルギー、さらには介護まで、幅広い領域で取材活動を行っている。

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