「ただ、最新の動物による実験・研究では、食事におけるカロリー制限や、肥満症の人に用いられる漢方薬の防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)や大柴胡湯(だいさいことう)によって難聴を予防できる可能性が示唆されました。聞こえを悪化させないためには過食を控え、メタボリック症候群にならない生活をすることが大切です」(同)

 メタボリック症候群の予防が、なぜ難聴予防になるのでしょうか。メタボは動脈硬化や炎症を促進させ、体内における酸化ストレスの原因となります。酸化ストレスは活性酸素を増加させ、活性酸素はミトコンドリアDNAを損傷します。聞こえにかかわる内耳の有毛細胞はこのミトコンドリアを多く含有するため、メタボは難聴のリスク因子なのです。

 また、近年では動物実験において、カロリー制限により老化の進行を遅らせる長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)が活性化することもわかっています。食事量を抑え、なるべくからだを動かすことで長寿遺伝子が活性化し、生活習慣病をはじめとする老化に伴うさまざまな疾患や加齢性難聴にもなりにくくなるといいます。

 難聴予防の第一歩はカロリー制限ですが、同時に質のいい睡眠、栄養バランスのとれた食事、適度な運動により、「自律神経を整え、ストレスをためないことが重要」と菅原医師は強調します。加齢性難聴や突発性難聴の発症はストレスとも関連が深いため、なるべくストレスをためず、趣味やスポーツでのストレス発散や自律神経の状態を整えておくことも大切です。

「睡眠障害も難聴発症につながる糖尿病のリスク因子です。とくに、睡眠時無呼吸症候群の中等症以上は心血管系異常のリスク因子であり、糖尿病の合併率も高まります。日々の睡眠の質もまた、加齢性難聴予防では重要なのです」(同)

(文・石川美香子)

※週刊朝日ムック『「よく聞こえない」ときの耳の本[2020年版]』より抜粋