また、慢性腎不全や在宅酸素を必要とするような呼吸器疾患、糖尿病など、生命を脅かすおそれのある合併症が存在するにも関わらず、ご本人の協力や周囲のサポートでも十分な管理が得られない場合、施設など介護者が常在するような保護的環境を(場合によっては、一時的に医療機関で)整える必要性を感じるところです。



 このように、施設入所の目的が生命の保護であった場合は、比較的理解が得やすいですが、入所のきっかけとなるにも関わらず、当事者の葛藤などによって決断に結びつきづらく、ときに複雑な状況を生じさせてしまうものも私は経験します。具体的には、ご本人と支援者、特にご家族との人間関係になります。

 在宅介護での認知症患者に対する介護者の思いや現実との乖離、両者間の不調和に伴う心労、人間関係に及ぼしうる影響などについては、第9回(2019年7月18日公開)で触れました。

 スペースの都合から再掲はできませんが、上手くいくことばかりではない介護では、ときに大切な家族関係がこじれて複雑になってしまうことがあります。一度、関係が損なわれると修正することは困難であることも多く、患者本人が受ける損失は計り知れません。

 よって、認知症の症状によってご家族と健全な人間関係を持続できないことが疑われたとき、(賛否両論あるかと思いますが)患者の担当医として、ご本人やご家族と一緒に状況を振り返り、施設型サービスの利用を勧めることも一つの有効な選択肢となりうるように思います。

 Aさんのご相談に対するお答えとしては、「できることはやってみたうえで」という前置きはありますが、明らかな指標の一つは、施設型サービスを利用しないとご本人に生命の危険がおよぶこと。また、少しぼんやりとしてしまうかもしれませんが、もう一つの指標として、認知症の症状によって介護者との健全な人間関係が維持できなくなってしまうこと、が挙げられるかと考えます。


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家族間でコミュニケーションを重ねることが大切