一方、東洋大は、1年から4年連続で5区区間賞を獲得した柏原竜二の存在が大きかった。彼の快走で09年に初優勝を果たしてからは、彼が付けるタイム差を計算できることで余裕を持って区間配置が出来、前を走る選手たちも「このくらいの差までなら、彼が逆転してくれる」という安心感を持って走れたことが大きい。それに続く選手たちも入ってくる中で、監督の指導や選手たちの意識がも徐々に熟成されて「粘り切る走り」というチームカラーも明確になったことで、11年連続3位以内という安定感を持つ強豪校に育っている。

 だが監督たちには苦労もある。選手は毎年のように入れ替わり、いくらいい選手たちが入ってきても4年間で卒業し、戦力が薄くなる時期も必ず来るということだ。そうなったときに、どこかでミスをして順位を大幅に落としてしまえば、選手たちの意識も一気に下がってしまう。それを再び盛り上がらせるには大きなエネルギーも必要だ。

 さらに時代によって選手たちの価値観や意識も変化しているということだ。ベテラン監督になればなるほど、そういう傾向への対応にも苦労する。駒大の大八木弘明監督も、それまでは7年連続で3位以内に食い込んでいながらも、18年に13位に沈んでシード権獲得を逃した時には真剣に考え、その後は選手たちへの接し方も変えたと苦笑しながら話していた。

 そんな中、箱根駅伝の傾向も徐々に変わってきている。今でも5区も重要ではあるが、17年から2・4キロメートル短くなって05年以前の距離とほぼ同じになったことで、その重要度は若干減少している。さらに各選手のレベルが上がってスピード化している中では、かつてのつなぎ区間はなくなり、すべての区間が戦略的には重要になっている。それに対応するための選手層の厚さも、さらに重要になっている。そこが各校とも苦労しているところ。ひとつのミスも許されない駅伝になっているのだ

 現在では箱根駅伝への注目度もかつてよりははるかに大きくなっている中で、各校のスカウトも激化していて、戦力も均衡化し始めているているといっていいだろう。そのために選手スカウトは重要になってきているが、だからこそより面白い箱根駅伝も期待できるともいえる。かつての「復路の順大」や、スピードランナーを揃えて往路を突っ走るような、それぞれの大学が自分たちのカラーをぶつけ合い、どこが優勝するかわからないような駅伝になればなるほど、毎回ハラハラドキドキ楽しめる。そんなときが近い将来には来るかもしれない。(文・折山淑美)